君に毒針
全部見透かされているような気がした。
わたしの心は、すでに先輩の手の上で、もう抗うことは出来なくて。
妙に熱っぽい気がする視線に、逃げられないと覚悟した。
「先輩っ!」
「なーに?」
「あの、ありがとう、ございます」
「………どーいたしまして」
少し濡れた髪も。小さく上げた口角も。
全部が特別で、全てを愛しいと思った。
つい数分前、会っただけ。
一緒に歩いただけ。
名前も知らない。どんな人かも分からない。
それなのに、胸のざわめきとかときめきとか全部持ってかれた。