嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「なんて説明したらいいのか分からない。本当に変な感覚なんだ。しいて言えば、小さい頃に仲がよかった遠い親戚に会ったような」

「それでいいんじゃない? 無理に沙倉さんを産みの親という場所に位置付けなくても」

「それでいいのか」

「いいでしょ」

 杏太が言うと、そういうものだと思えてくるから不思議だ。

 せっかくの機会だから亡くなった父親に線香をあげたいと申し出たのだが、この家には仏壇も遺影もないとばあさんに告げられた。

 立ち直ったようでいて、あの人はまだ死と向き合えていない。

 駆け落ちまでした相手なのだから、とても愛していたのだろう。

 俺ももう花帆なしでは生きられない。

 人を愛し、家族を作り、子供が産まれる。そこまでいったら、あの人の気持ちをもっと理解して寄り添えるかもしれない。

 あくまで理想の話だけれど、そうなればいいなと思っている。

 仏壇はなくても墓参りはできる。お盆に誘ってみよう。あの人なら頷いてくれるはずだ。

「帰ってきた」

 杏太が窓外を指差す。

 三人共たくさんの紙袋とビニール袋を手にしている。

「買いすぎじゃない?」

 杏太がおかしそうに白い歯を見せたので、俺も苦笑して残りのコーヒーを一気に飲み干した。
 
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