嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「本当に和菓子がお好きなんですね」

 宮田さんの言葉に「はい」と大きくうなずいた。

 立春の頃から桜が散る頃までお店に並ぶこれらは、私だけではなく桜に弱いとされている日本人の心を掴んで離さない。

 特に桜餅は春の時期の売り上げに大きく貢献している。

 お店の近くにはお花見ができるスポットもたくさんあるので、普段和菓子店に足を運ばないお花見客も大勢訪れるのだ。

「今月いっぱいで食べられなくなるのは寂しいですね」

 宮田さんに相槌を打ちつつ、「でも、夏も秋も冬も、いつだってここには美味しくて綺麗な和菓子が並ぶんですけどね」と笑顔を作った。

「たしかに」と、宮田さんと長尾さんが表情を和ませる。

 形が崩れないよう丁寧に入れてもらった化粧箱を胸に抱き、帰ったら食べられるのだといううれしさから無意識に早歩きになっているのに気づいたのは、視界に朝霧の家が入った頃だった。

< 29 / 214 >

この作品をシェア

pagetop