最期の花が咲く前に
11章、二人だけの日
旅行当日、私達二人はお互いの両親に見送られて新幹線に乗り込んだ。
京都へ向かう新幹線の車内は何処かワクワク感に満ちていて、とても楽しい。
ただ、私に向けられる視線が少しだけ痛いことも確かだった。
まぁ目にガーベラ咲いてる時点で怖いわ。仕方ない仕方ない。
隣には陽汰が居て、私の方にカメラを向けて写真を撮ってくる。
「あ、また撮った!もー」
「いいじゃん。真奈に送ろっと」
「もう。」
怒ってはいないし、逆に嬉しかったが、内緒にした。
今日の服装は秋っぽい色合いの可愛い服。陽汰は相変わらず大学生のような大人っぽい服装で、かっこいい。
「ねぇ、二人だけだよ?やばくない?」
「やばい。ドキドキする〜」
「それな、めっちゃ楽しみだけど、めっちゃ緊張する。」
この日までに貯めたお金は、今まで見なかったような金額。陽汰が本当に頑張ってくれた。
「咲那、着くまで寝てた方がいいよ。いつもよりすごい疲れるだろうから、体力回復しとかなきゃ。」
「そうだね。じゃあ、少し寝ようかな、肩借りる…おやすみ。」
すやぁっと眠る咲那を見て、俺の心臓はうるさくなる。
あからさまな動揺だ。この旅行、俺は我慢できないかも、と苦笑いしか出来なかった。
少しだけ色素の抜けた茶色がかった髪が窓の隙間の光に照らされてキラキラと輝いている。
肩に触れる温度とともに華奢になった身体を感じて胸がぎゅっとしてしまう。
君の手を握る。
俺は、君が目の前から居なくなった時、どうなってしまうのだろうか。
きっと、追いかけたくなってしまうんだろう。でも君はきっと、「生きて」と言うんだろうな。
「どうしたらいいんだろうな。」
答えの返ってこない問いを目の前で眠る君に告げて、俺も少しの眠りについた。

♪〜次は京都、京都〜
「ん…きょーと…。」
耳に入るアナウンスの音で目が覚めた。隣では陽汰も眠っていた。
「陽汰、着いたよ。」
トントンと肩を叩くと、うっすらと瞳を開けて、
「着いたぁ?おはよ、咲那。」
「ふふ、おはよ。ほら、早く行こ」
外の空気は涼しくて、遠くで聴こえる改札音だけが私達の元に届いていた。
「ついに来たね。行こっか!」
「うん!じゃあ、着物借りに行こうか!」
私達は駆け足になりながら目的地へと向かう。京都は着物で回ろうと約束していた。
着物レンタルショップは、駅の近くにある。
お店の中は沢山の着物が並んでいて、選べない程だった。やっとの事で選んだ着物は一部に赤や黄色の色が入った可愛らしい物。陽汰は、紺のシンプルな着物。私服もいいけれど、和装もより一層輝いて見える。
「すごい素敵。かっこいいね。」
「そうか?良かった。咲那も綺麗だよ。」
「お二人共、お似合いです。お洋服は、こちらの方で預かっておきます。楽しんでくださいませ。」
「ありがとうございます。」
着物で外を歩くのは慣れないけれど、京都へ来たらしてみたかったことが出来て嬉しかった。
手を繋いで、色々な所へ行った。
有名な抹茶パンケーキのお店や、美味しいお料理のあるお店、ちょっとした雑貨屋さんが建ち並ぶ通りに行った。
人力車でおすすめスポットを回ったりもした。
「おふたりさん方、何歳ですか。とてもお若く見える。」
「十七で、高校二年生です。」
「十七歳ですか。着物が良く似合いますね。お綺麗です。何処から来られたんですか?」
「東京です。そんなに都会の方ではないですが…」
「東京ですかぁ。いいところですよね。しばらく行ってないです。」
「あはは。」
「彼女さん、花咲病というものですか?」
「あ、はい。」
「初めて見ました。凄く綺麗ですね。花が輝いている。」
「嬉しいです、ありがとうございます。」
「京都の風景に似合います。楽しんでいってくださいね。着きました、伏見稲荷大社です。」
「ありがとうございました。」

綺麗な朱色で塗られた鳥居や建物がとても綺麗だった。
お参りを済ませた後、この場所で一番有名な千本鳥居の道に来た。
不思議な雰囲気を持つ場所で、自然と歩が進む。
陽汰は後ろからついてきているようで、今は私一人で歩いていた。
鳥居の並ぶ道は長く続いて、終わってしまうととても寂しくなる。
「咲那。こっち向いて」
「ん?」
振り返った時、カメラで一枚の写真を撮られた。
「いいのが撮れた。あと、これ」
「なぁに?」
陽汰の手の平には小さな鳥居があった。
「小さくて可愛いね〜。」
「咲那にだよー。見て、ここ」
その見て、と言われた所には、『姫野 咲那 日比谷 陽汰』と彫られていた。
「凄…え、頼んでくれたの?」
「うん。思い出にどうかなぁって思って。」
「凄い嬉しい…。思い出だよ、ありがとうっ。」
「良かった。じゃあ、次のとこ行こっか。」
「うんっ!」

食べてみたかった抹茶ティラミスのお店、かんざしのお店、公園、そして清水寺。
*☼*―――――*☼*―――――
「清水の舞台から飛び降りる。ってあるけど怖いよね絶対」
「だねぇ。怖すぎ」
「落ちてみる?」
「嫌だよ、アホか」
「あはは、冗談だよ。」
「小悪魔咲那さんですね。(笑)」
「べーっだ。(笑)」
「咲那、」
何?という暇もなく、陽汰は私の頬に…
「な、何やって…」
「アニメの真似、だけどめっちゃ恥ずいわ。」
「ば、ばぁか。照れるよ、普通に。」
「あはは。あ、そろそろチェックインの時間だわ、行くか。」
「ほんとだね。行こっか。手、繋ご?」
「はいよ。」

着物をお返しして、私服に戻る。その後は旅館にチェックインして、お部屋で休憩をした。
「いいお部屋だねぇ。」
「ほんとだなぁ。」
ふはぁーと休んでいると、陽汰が外の方へ行って、
「こっち、景色いいぞ。」
と手招きで呼んでくる。
「本当?見る見るー。」
「ほら、」
外を見ると、赤や黄色に染ったもみじが広がっていた。目線を下に向けると、優しく流れる川と、滝も見えた。
「綺麗…」
「この部屋、景色が綺麗ってことで有名なんだよ。」
「凄いね…綺麗。」
「喜んでくれたみたいで良かったよ。嬉しい。」
「私も凄い嬉しい…。ありがとう。」
「いいえ。あ、露天風呂入ってきたら?夕飯まで時間あるから。」
「じゃあそうする!入ってきまーす。」
「はーい。」
*☼*―――――*☼*―――――
「ふわぁー。きもちい〜」
一人で入る贅沢な露天風呂。景色を見ながら、ゆっくりとお風呂に浸かる。
身体に咲いた花が水の中で揺れる。その姿がとても美しく見えた。
陽汰も入りたいだろうし、そろそろ出ようかな。
でも、綺麗な景色ずっと見てたいなぁ。陽汰、此処予約してくれたの凄いなぁ。
*☼*―――――*☼*―――――
「上がったよ〜。」
「はぁいって、その服、」
「えへへ、似合う?着付け上手出来ないから少し汚いけど、旅館ぽいでしょ。」
「うん、似合う…あと、髪、お団子にしたんだね。」
しばらく髪は切っていなかったから、お団子にしやすかった。
「やってみたら出来たの。いいでしょ。」
「うん。お、お風呂入ってくるわ、」
「行ってらっしゃい…?陽汰、どうしたんだろ」
*☼*―――――*☼*―――――
ばしゃっ
「なんだあいつ、めっちゃ可愛いー…」
お団子頭に、あの浴衣姿はずるい。それでニコってしたら俺は倒れる。
「やべぇなぁ…」
明らかに動揺が隠せない。
顔に被った水でさえもすぐに熱くなったような気がする。
「…温泉入って冷さねぇと。」
熱い身体が冷めなくて、ぬるい温泉に沈み込む。しばらく静かに景色を見ていると、
「ひ、陽汰ー、お風呂出たら散歩行かない?下、歩けるみたいなの。」
「んっ?!あぁ、いいよ、行こっか。」
ビビって変な声が出てしまった。バレてないかな…。
「どうかしたの?今変な声したけど…」
「全然大丈夫!気にしないで、あはは。もうすぐ出るから。」
「そう?じゃあ待ってるね。」
スタスタと歩いていく音に耳を済ませ、聞こえなくなった後に、
ぶくぶくぶくぶく…
桶に張った真水に思い切り顔を入れて、なんとか熱さをすっ飛ばした。
*☼*―――――*☼*―――――
「上がったよ。行くか。」
「うん!浴衣似合うね。」
「ありがとう。…ほら、はよ行くぞ、」
私はさっきの陽汰の謎の声に疑問を持っていた。あんな声聞いたことないんだけど。
何か、隠してるのかな…でも、そんなことないだろうし…具合悪いとか?どうしよう…。
そんなことを考えていると、いつの間にか私の足は止まっていた。
「咲那…?どうした?具合悪いのか?」
聞くか聞かないか、迷ったけれど、
「陽汰こそ、具合悪いんじゃないの?さっきから変だよ!お風呂でなんか聞いたことない声出てたし、」
全て言い切る前に、陽汰は
「咲那が、可愛すぎるから…。は、恥ずくて、その…直視できないんだよ!」
「…えぇ?そ、そんな理由?」
「そんなって、俺にとっては、重大な事だわ!ちょ、ほら、外見に来たんだから、外見なよ、俺ばっか見んなって…」
「…(じー)」
「な、なんだよ…まじ、やめて、溶けちゃうから…」
「陽汰も、かっこいいよ。」
「ばっ!まじ恥ずいからやめて!」
「ふふ、ほら、行こ!」
照れる陽汰は初めてかなぁという感覚で、可愛かった。
繋いだ手は暖かくて、すごく落ち着いた。
涼しい風が私達の間をすり抜けて、火照るからだを冷ましてくれた。
周りに広がる景色が綺麗で、非日常的で、人間が魂だけになって行くならここがいいと思うほどだった。
「ほんとに綺麗だね。」
「うん。…ここにして良かったな。」
「ね!あ、そろそろ戻らなきゃかな、時間が」
「ほんとだな、じゃ戻るか。」
「夜も来る?」
「行きたいなら行こうか。」
「えへへ、そうだね。」
*☼*―――――*☼*―――――
その日の夜は、とても楽しいものだった。
美味しいご飯を食べて、二人で写真を見返して、笑って、と。
段々と夜が訪れ、暗くなる景色を見て私達は外へと向かった。
ライトアップされた紅葉がとても美しかったことをよく覚えている。
綺麗だね。なんて言いながら二人で見る景色は何倍も愛おしく感じた。
不意に、陽汰と顔が近づいて私の心臓が飛び出しかけた。高鳴る鼓動は収まらず、部屋に戻った後もドキドキしていた。
*☼*―――――*☼*―――――
紅葉をこれほど綺麗だと思ったことは無い。そうに思える景色だった。
目線に広がる赤や黄色の綺麗な景色と、少し横を向けば咲那が嬉しそうに笑っていた。
俺が後ろを向いた時、君との距離がぐっと縮まって俺は一瞬無になった。
部屋に戻ってもバクバクと胸が鳴り止まず、耳に聞こえるのは自分の鼓動だけで、今にもおかしくなりそうだった。
その刹那に聞こえた君の声は、とても大人っぽく聞こえてしまったんだ。
「ねぇ、陽汰。陽汰は、今日一度もドキドキしたことって、無かった?」
それが気になりすぎてとうとう聞いてしまった。陽汰は驚いたような顔で、それは赤い顔をしていた。
「し、したに決まってんだろ。当たり前…」
私は、陽汰が大好きだ。こうに旅行に来れることはもう無いだろう。
ならば、私は、
「陽汰は、私の事好き?」
「大好きだけど?」
「良かった。」
それを聞いてふっと気の抜けた私は、陽汰の膝の上に何故か座りに行って、
「じゃあ、こうにする。いいでしょ?」
「いいけどさぁ、」
恥ずかしかったけれど、幸せだった。…まぁ陽汰だって男だから、
「いいんだけどさ、俺、ダメになるよ?流石に、キツい。」
その声に反応するように振り返ると、
「っ!」
いつもより心のこもったキスをされて、陽汰は耳まで赤くなった顔を真っ直ぐ向けて、
「いいか?」
と、一つ私に問う。私の心臓は破裂寸前で、それ以上に背中に伝わる彼の鼓動を聞いてしまった。
「…。」
声を出さずに首を縦に振る。
その直後、どの果物よりも甘酸っぱくて、溶けるようなキスを交わした。
熱い身体は彼の顔を、目を見る度、さらに熱くなる。
彼も見たことない表情を浮かべて、私の事を連れていく。
解けた帯が私の腕にかかる。
「この花って痛くないのか?」
そっと花に触れた指、背中にくすぐったい感触が生じる。
「ひゃっ、」
「痛くはなさそうで良かった。…咲那、俺は一生咲那を手放さないからな。」
「うん、ありがとう。」
・.。*・.。*
熱くて、甘くて、陽汰の声が耳に入ると胸は飛び出しそうになる。
そんな、甘すぎる時間だった。でも、私は同時に悲しさを感じた。次、こんな幸せな日は来ないんじゃないだろうかと勝手に考えてしまう。陽汰の腕の中でそんなことを考えて悲しくなった。
「なんで悲しそうにすんの?今くらい、悲しい顔すんなよ。」
「ごめん、もうこうに出来ないかもって思うと寂しくて」
「出来るよ、大丈夫。諦めなきゃ、きっと。」
「そうだね。」
そんな彼の言葉は私の胸にしまわれて、ずっと暖かく囲んでくれた。
二人だけの部屋に、二人だけの吐息が聞こえる。
煩い程の鼓動をかき消すように陽汰が一言、
「咲那、愛してる。」
そう言ってにっこりと笑った。
暗がりの中に浮かぶ、一つの灯りがそっと私達を照らしていた。
*☼*―――――*☼*―――――
「な、咲那、朝だぞ」
「っ、朝ぁ?」
うっすらと瞼を開くと目の前には陽汰が居て、同時に夜のことを思い出して恥ずかしくなる。
「陽汰ぁ、おはよぅ」
「おはよう。起きてすぐに顔が赤いとか、夜の事でも思い出しちゃいましたか?」
「そうだよ!ちょー恥ずかしいし…」
「知ってるよ〜。可愛いなぁ。」
「むぅ、」
少年のような悪戯笑顔を浮かべた君がまた私の心を高鳴らせる。
「あ、あと一時間くらいで朝ごはん来るって。準備しとこか。」
そうに言われて私はサッと服を着た。
…一時間後
「失礼します。朝ごはんでございます。」
「はーい」
二人でニコニコしながら朝ごはんの準備を見る。
美味しそうな料理が沢山並んでワクワクする。
「では、ごゆっくり。」
「美味しそう〜。食べよっ!あ、写真だけ撮らして」
「俺もー」
二人で笑っていられるそんな時間が好きなんだ。
陽汰が用意してくれたこの旅行は、最高のものになるといいな。
*☼*―――――*☼*―――――
「食べたな。じゃあ、電車乗って行きますか!」
「おー!」
今日の目的地は、ずっと行ってみたかったUSJ!ハリーポッターの中で出てくる杖のお店に行きたかったんだ〜。
「はい、チケット。楽しみだな〜。俺、黒い池見たい」
「私もっ!凄い見たい!」
「楽しみだな〜。本当に。」
スマホのマップでUSJ内を見ながら話す。
顔が近づいて、笑っちゃう時もあったけど、とても楽しかった。
「そういえば、薬ちゃんと飲んできた?」
「うん!飲まなちゃ倒れちゃうからね。」
最近は花に向かう体内のエネルギー量が多くなって薬を飲まなければ倒れてしまう。
「なら良かった。あ、着いたらまずUSJ近くのホテルな!荷物、置いてこなきゃ。」
「そだね!」
なんだかんだ話しているうちに駅について、私達は目的地のホテルに着いていた。
このホテルは、安いのだが部屋にカラオケがあったり、ベットが沢山あったりととにかく贅沢なホテル。
夜はゆっくりカラオケでもしよう!となっている。ここには二日間泊まる予定で、USJと大阪を二日かけて観光する。
「じゃあ、USJへしゅっぱーつ!」
「しんこーう!」

初めて来たUSJにワクワクが止まらない。ハリーポッターのエリアは秋ということでハロウィン仕様になっていた。
杖のお店に行くと、店の主人はこちらを見て、
「なんとも素敵な魔法なんだ!たしか、花咲病という魔法かな?」
「そうです。花咲病にも似合う杖、ありますか?」
「ええ。もちろん。特別な仕様の杖でございます。」
そういって、後ろの棚から一つの箱を取って私に渡してくれた。
「さぁ、その杖が貴方様を導いてくれるでしょう。」
その箱の中には、花柄の模様が一部に掘られた杖があった。
「わぁ、素敵…ありがとうございますっ。」
「いえいえ。楽しんでくださいね。次は、そこのお兄さん。」
そうに陽汰が杖を貰っていた。陽汰の杖は、一部が赤に塗られた杖だった。
「めっちゃかっこいいの来た(笑)やったー。」
「やったね!じゃあほら、魔法かけに行こっ!」
はしゃぐ私を抑えつつ陽汰は横を歩いてくれる。親みたいでなんだか笑ってしまう。
お店で百味ビーンズを買ったり、黒い池で写真を撮ったり、ホグワーツ城を映画の中みたいに歩き回ったりとハリーポッターのエリアだけでもすごく遊んだ。
エリアを出る頃には服装がハリーポッターの中に出てくる人になっていた。
それを見てお互いに笑いあった。
その後も色んなエリアで遊び回って、やっと一休みにつけた。
「はい、スヌーピー」
「めっちゃ可愛いっ!ありがとう。」
スヌーピーのカスタードまん。もちもちして凄く可愛い。
「楽しいな。」
「うん。ここの人、花咲病を受け入れてくれてるの。皆優しい。」
「咲那が、心から楽しめてよかった。俺も楽しいし。」
「陽汰、ありがとう。私、一生来れるかわかんなかったけど、陽汰のおかげで一生の思い出が出来た。」
「一生の思い出が増えてよかった。まぁ、これからも増やすけどな。」
「あはは、そうだね。スヌーピー美味しいね。」
「美味いな。」
パシャっと一枚写真が撮られた。
「な、なんの写真?」
「食べてるとこ。咲那のその顔、可愛いから写真撮りたくなっちゃうの。」
「まあ恥ずかしい理由だなぁ…」
「そういえば、クレープ食べてる時の写真も消してないからね〜。」
「クレープ…?あっ、夏休みの?!もー!どうせそうだろうと思ったけどさ!」
「俺だけの写真だから〜」
「いいけどさぁ…恥ずかしいからね?」
「はいはい。」
でも、私も陽汰の寝顔が可愛くて写真を撮ることがあるから、実はなんとも言えないんだけど。
それは秘密にしておこうかな。
その後、夜に入る前まで遊んで、夕飯を食べてホテルに戻ってきた。
「ふへぇ、疲れたねぇ。」
「疲れた〜。」
「お風呂入ってくるね〜。」
「へーい。」

二人ともお風呂に入ったあとは、カラオケをまったりとしていた。まったりと言っても、ずっと歌い続けていたから何だかんだ今の時刻は一時。完全防音室で良かった。
「じゃあ、そろそろ寝るか。」
「はーい。」
「八時に起きて、大阪観光と行きましょか。」
「おー!」
*☼*―――――*☼*―――――
「朝だぁー。」
明るい日差しで目が覚めた。隣で陽汰はまだスヤスヤ眠っている。
「写真…」
ベットを降りて陽汰の寝顔を写真に撮る。
「ふふっ、起こそっと。陽汰、陽汰ー。朝だよー。」
「ん〜?朝か、おはよう。」
「おはよう。ほら、早く出かけよ!観光だー!」
大阪の有名な所を回って、お好み焼きをたべたり、たこ焼きを食べたりした。
この三日間だけで二人の写真が物凄く増えた。
ほとんどが笑っている写真。いくつかふざけて撮った写真もあるのがまたいいアルバムになっている。
最後の夕食に向かう時間になっていた。
「夕食どこで食べよーか。」
「夕食、俺良いとこ知ってるから、そこ行く?」
「えっ!行きたい!」
「じゃあ行こっか。」
楽しい気分だったのだが、少しだけ目元が痛かった。
「そういえば、薬、飲んで無くないか?」
「あ、そういえば…」
「今飲んじゃいなよ。待ってるから、大丈夫だよ。」
「ありがとう。じゃあ、飲んじゃうね。」
…薬を飲み忘れていたから痛んだんだろうか、少し気になって、私は眼帯を外してみた。
「何ともない?」
「少し、花が大きくなってる、かなぁ?」
「そのせいかなぁ、少し痛くて。」
「まじ?大丈夫か」
「大丈夫。これくらい、たまにあるから。」
「ならいいけど、無理しないように。じゃ、行こっか。」
*☼*―――――*☼*―――――
「っえ、ここ?!」
「うん。行きましょか」
「えぇ〜?」
そこは、鉄板焼料理と書かれたオシャレな看板が立てられたお店。
「た、高いって、」
「大丈夫。予約してあるから。」
「えぇ〜」
まさかの予約済みで私は焦ったけれど、陽汰は余裕そうだから、少し信じてみよう…。
♪〜カランコロン〜
「いらっしゃいませ。ご予約の日比谷様でしょうか。」
「はい。」
「ご案内致します。…こちらの席にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「では、ご注文お決まりになりましたらお呼びください。」

「凄いところだね。」
「ふふ、咲那ステーキ好きと思って。予約しといたんだ。」
「ステーキ大好きだよ!ありがとう。」
「何食べようか。」
「うーむ…じゃあこれ、」
「了解。他何か食べる?」
「パン食べたい。」
「おけ〜。じゃあ、俺はこれと、パンにするわ。すいませーん。」
「ご注文お伺いします。」
「えと…」
注文している所を横目に見ながら店内を見渡す。
目の前の鉄板の向こうには、一人のシェフが立っている。
注文が済んだあと、シェフがこちらに来て、
「お二人さん、どこから来たんだい?」
「東京です。旅行で。」
「若いのに、この店来るなんてなかなかじゃないか。なんの仕事やっているんだい?」
「学生です。あ、咲那の思い出になればなぁと。」
「へぇ。お金はどうしたんだい?」
「親から少し借りて、あとはバイトで。」
「陽汰、本当にありがとう。嬉しい」
「いえいえ。」
「良い男じゃないか。しっかりしてるね。…お嬢さんは、花咲病なんですか。」
「はい、一年半くらい前に分かって、だいぶ進行が早くてあと一年生きられるかどうかなんです。」
「そうなのか…でも、諦めちゃ駄目だぞ。自分を信じて、みんなを頼って頑張るんだ。ほら、焼けたよ。どうぞ。」
「はいっ。ありがとうございます。わ〜!美味しそう!」
「はい、パンも。ゆっくり食べてね。あ、お兄さんはもう少ししたら焼けるからな。」
美味しいお肉の写真を直ぐに撮って食べ始める。
「ん〜まぁ!美味しいですっ!」
「良かった。嬉しいねぇ。」
美味しいね、と言い合ったり、一口分けて食べた夕食はあっという間に終わってしまった。
「美味しかったです!陽汰、ありがとう。」
「良かった!二人とも来てくれてありがとね。」
「このお店に来れて、良かったです!」
「いえいえ。また来てよ。待ってるから。」
「あはは、分かりました。」

♪〜カランコロン〜
「美味しかったなぁー。ありがとう陽汰。」
「いえ。美味しかったな。」
二人で手を繋いで夜の大阪を歩く。ホテルに着く頃、私達はこの旅行が終わってしまうと思い悲しくなっていた。
「終わっちゃうね。」
「そうだな。寂しい。」
「夜は、ゆっくり凄そっか。せっかくなんだし。」
「おう。じゃ、戻ろうか。」

二人でゴロゴロしながら写真を振り返ったり、歌を歌ったりしていたが、さすがに夜も更けてきた。
「…もう寝なきゃだね。」
「そう、だな。寝ようか。」
「うん。」
「一緒に寝るか。」
「えっ?」
「近くにいてよ。」
「分かった。」
自然と笑みが零れた。陽汰のその言葉が嬉しかったんだ。
二人で一緒に眠りながら、旅行の思い出を振り返って、胸にしっかり留めた。
陽汰の腕の中、可惜夜に私はまだ終わらないで、と希うのであった。
*☼*―――――*☼*―――――
大阪を出発して、東京まで戻ってきた。
終わってしまった旅行だったけれど、とても楽しかったし、たくさんの思い出が出来た。
「楽しかった。ありがとう。」
「良かった。また行こうな。」
「うん!…またね!」
「おう!」
お互いの家に入ろうとしたが、私は陽汰を呼び止めて、
「陽汰っ!大好きだよ!また旅行いこうね!」
「ふふっ、分かったよ。俺も大好きだよ。」
「じゃあね!」
「じゃあな!」
…パタンと、扉が閉まって、私はその場に座り込む。
幸せだった三日間。それは私の一生の思い出になるだろう。
「あ、おかえり!楽しかった?」
「凄く楽しかった。行ってよかったぁ。あ、お土産ね」
「わーありがとう!」
「あ、少し部屋行くね。」
「はいはーい。」

ベットに寝転がりあの日のことを思い出して恥ずかしくなる。
「陽汰、大好きだよ。」
そんな一言が部屋に広がって、静かに溶けていく。
幸せな日を日記につづって、その日々をまとめて、
『可惜夜に希う』
と名づけるのであった。
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