最期の花が咲く前に
薬開発から数週間、学校は冬休みに入った。
去年の冬休みは葵の所に通っていたこともあり、イルミネーションなどには行けなかった。
今年は、私が車椅子になってしまうがイルミネーションに行こう!と四人で話していた。
陽汰が私を迎えに来て、駅に向かう。
「重くない?」
「重くないよ。大丈夫。咲那は寒くないか?」
「大丈夫。暖かくしてきたから。」
「じゃあ、出発ー」

駅では既に真奈と亜樹君が居て手を振っている。
電車に乗る時は車椅子から少し降りて、歩いていた。歩くことは出来るけれど長時間はダメになってしまった。
「ごめんね。迷惑かけて」
「迷惑じゃないよ。どんどん頼って。ね?」
「うん、ありがとう。」
電車に揺られて、有名なイルミネーションの所まで来た。
とても綺麗に輝く園内に見とれていた。
ゆっくりと進んでいく景色の全てが綺麗だった。写真を撮ったり動画を撮ったりしてはしゃいでいた。
イルミネーションを見ていると、私もこんなふうに光り輝いてみたいと思うばかり。
長い時間をかけて園内を周り切る。すごく楽しかった。
最後にお店に寄って、皆でお揃いのクマのぬいぐるみを買ったり、可愛い雑貨を買ったりした。
四人でこんなふうに遊びに来れて嬉しかった。
真奈も亜樹君も楽しそうでよかった。
陽汰も隣でずっと笑ってくれている。その風景に私は
「幸せだね。」
と呟いた。すると陽汰も、そうだな。と優しく微笑んでくれた。
イルミネーションから帰った後、私はアルバム作りを進めていた。
色んな仕掛けのあるアルバムを作るのは楽しかった。ネットで調べて映画のフィルム調にしたり、観覧車を作ったりととても楽しかった。今日のイルミネーションのページは雪の結晶や実際に見た景色を簡単に描いてみたりした。
写真はママに印刷してきてもらったものを使っている。
段々と完成系に近づいてきていて、渡す時のワクワク感でいっぱいになる。
最近の日記はアルバムがどこまで進んだとかがよーく書いてある。
このアルバムは、春に行う予定の仮結婚式?で渡す予定。
今から楽しみで仕方ない。…体調も良くしていかなければいけないから頑張ろう。

その日は病院に行って進行を遅くする効果も見つかったあの薬をもらいに行った。
ハル先生に心配されたが大丈夫だと伝えて家に帰っている。
ただ、すこしアルバムに使う材料が欲しくて、近くの百均に寄った。
久しぶりに一人で買い物をするのが楽しかった。
材料を買い込んで家に帰る。
家に着いた頃には疲労が溜まって溶けるように座り込んだ。
体力の減少はしばらく動いていないせいでもあるんだろう。困ったものである。

年が明けて、初詣。初日は家族と、次の日は友達と。
みんな私が元気に過ごせますようにと願ってくれた。
お守りを買ったり、絵馬を飾ったりしていい新年の幕開けになったと思う。
陽汰も嬉しそうに笑ってくれた。おみくじは中吉。大吉ではないけれど、中吉には全て良いと書かれていた。
特に良かったのは病気。そこには、治りはしないが良く収まるでしょう。と書かれていた。自分でももう治らないなんて知っている。だからこそ、良く収まるということが嬉しかった。
「治りはしないのか。」
「うん。でも酷くはならないのかな?そんな感じに書いてある。」
「なら、良かった?かな。」
「ね!良かった〜」
「あと、今年もよろしくな。」
「よろしくね。」
すると、そっと耳元で
「大好きだよ、咲那。」
「わ、私も大好き!」
そんな会話を繰り広げているのが幸せです。

アルバムの完成が近づいてきた頃、冬休みが終わり、学校が再開した。
学校には陽汰と二人で通っている。車椅子の日もあれば、歩いていく日もある。
先生達には心配されるけれど、私は大丈夫です。と伝えておくのみ。それ以外には何も無い。
日常生活を過ごす中、段々と体の機能が低下していることを感じていた。
今までできたはずのことが出来なくなっていた。それは時の流れと共に増えていた。
それが嫌で無理にやろうとして陽汰や真奈に止められたりした。
その度に、私は「どうしてできないの?なんで!」と訴えていた。
悲しいほどに弱った自分が嫌いだった。
二人に当たったり、家族に当たったりしたこともある。
それでもみんな優しく「大丈夫。大丈夫だよ。」と私をなだめてくれた。
症状の進みが早まったこともあり、私は短期入院することになった。
病院の中はつまらない。静かに過ごす中、アルバムを作ることだけが楽しみだった。
そして、その入院が終わってまたみんなに会えた時の嬉しさが大きかった。
また学校に通える。それが楽しみだった。でも、またもしも同じことを繰り返したら…?
「咲那?どうかした?」
そんな陽汰の声でハッとした。
「陽汰、私、今、また戻ったらどうしようって考えちゃった、諦めないって言ったのに」
「大丈夫。戻んないよ。戻りそうになったら、俺が支えるから。諦めんな。絶対。」
「陽汰ぁ、ありがとう、また迷惑かけちゃったらごめんね」
「いいよ。迷惑かけてよ。大丈夫。」
そんな一言が私を包んでくれた。

みんなに支えられながら、私はこの病気になって、二回目の春を迎える。
その春は、私にとって最高の思い出になる。
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