小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
今日の晩ご飯は夏野菜カレーだ。送られてきたナスと玉ねぎはもちろん、ジャガイモと人参、そしてミニトマトが入っている。
ミニトマトの酸味が更に美味しさを引き立てて、舌鼓を打ちながら私は堪能した。


「………」


けど、頭から離れるわけがない重大な決め事に悩んでいることは変わらず、黙ったまま私は彼の表情を見ていた。

きっと彼は気づいている。

何故か、というか彼はそういう人だから。
察しが良くて私のことをよく見ているからこそ、きっと頭の中で思考を巡らせているのだろう。


「……詩乃ちゃんさ」

「っ…はい…!」


あまりの唐突な呼びかけに、私の体は硬直する。カレーの辛味が舌をピリつかせている間、不自然なほどに姿勢を正して私は郁人くんと目線を合わせた。



「子供欲しい?」

「っ!!」



驚くほどに核心をついた質問に、さらに背筋が伸びる。そして治ったはずの赤面が再び振り返して、心臓がバクバクと音を立てた。


「仕事は軌道に乗った。まだ26歳だし早いとも思うけど…妊活してすぐにデキるとも限らないし」

「………うん…」

「子供を産んで色々と大変なのはお互いそうだけど………僕は運が良ければ1時間かければ子供をつくれる。……でも詩乃ちゃんは約10ヶ月くらいかけてお腹の中で子供を育てる…。」


真剣な声音に視線が逸らせない状態だ。
それだけ真面目に考えてくれていて、決断しようとしていて。

場違いだろうか。
空気を読めていない感じが甚だしいだろうか。


彼の姿勢に惚れ直してしまった。



「だから、これは2人で決めることだし……今までこの手の話はして来なかったけど……。その…詩乃ちゃんはどうしたい?」


その質問に対する答えを熟考する時間は全くなかった。


「欲しい。………………郁人くんとの子ども……欲しい……です…」


軽いと思われるかな。

もっと深く考えろって怒られるかな。


愛しくて仕方がない夫との間の子ども。


あと少しで27歳になる私たちにはまだ早いだろうか。
歳ばかりとって未熟なのは変わらない私たちの子どもは、産まれてきて幸せになれるだろうか。


不安は山積みで、妊活を始めるタイミングなんてよくわからなくて…。


それでも無知な私は、彼に言うのだ。


「……郁人くんは…子ども、欲しい…?」

「…………………うん…」

この問いかけに彼は顔を赤くしながら、そして無言のまま一度頷いた。




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