直球すぎです、成瀬くん



人に合わせるのは苦ではない。

むしろ、合わせる方が好きだ。


好きという言い方が合っているのかはわからないけれど、その方が私にとってはよかった。


幼い頃から周りの人たちに合わせて生きてきた。

大きなトラブルもなく平穏に過ごせていたから、そうすれば嫌われることもないと思った。


そんな生活を続けてきたおかげで、私は思っていることが言えなくなって、みんなと違うことを言うのが怖くて、嫌われるのが怖くなった。

だから、ずっと人に合わせて生きてきた。



そんな私に憧れの人ができたのは、中学2年生。

クラス替えで一緒になった、西内百叶(にしうちももか)


彼女には小さな妹と弟が1人ずついて、共働きの両親に代わってずっと2人の面倒を見てきたという。

その影響もあってか、面倒見がよくてしっかり者、というイメージが強い女の子だ。


そして彼女もまた、人に合わせるのが上手い。

いや、上手いなんて私が言えたものじゃないけれど、きっと幼い2人の面倒を見るうちに、自分の言いたいこと、欲しいものを素直に言えなくなってしまったのだろうと思った。


けれど、彼女はとても自然だった。

合わせてくれているという感覚をこちらに持たせないで、ごく普通に、周りの人に合わせて接するのがすごく自然だった。


私は彼女と一緒に過ごしていくうちに、次第に私も彼女のようになりたいと思うようになった。

相手に気を遣わせることなく、ごく自然に、合わせられるようになりたいと。



彼女が周りに合わせるようにしていると知ったのは、彼女が私にそう話してくれたから。

そんな彼女は、私には、本音で話せると言ってくれた。

あまり気を遣いすぎないで、話したいこと、思ったこと、言えるんだって笑ってくれた。


私には、それがとても嬉しくて仕方なかった。


けれど同時に、そんな彼女に嫌われたくないという思いが強くなってしまった。

初めてこんなに話をすることができた相手にすら、私は、自分の気持ちを上手く話すことができなかった。



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