直球すぎです、成瀬くん



「…で、柚は何出たいとかもう決めた?」


「……えっ」



無意識のうちに、今も頭の中でこのことを考えてしまっていた私は、まりなちゃんの呼びかけで我に返った。


「…え、と……ご、ごめ、えっ…と………」

「事前に出る種目狙って、さらには順位まで意識するような女子高生ばっかりじゃないんだよ、まりなさん」

「っえ!嘘あたしだけ?玲可も百叶も決めてないの!?」

「あたし決めてないよ」

「…うん、私も、まだ」


ウソ〜〜と目を丸くするまりなちゃんの肩を、玲可ちゃんがぽんと軽く叩いた。


「まあけど、それがまりならしくてあたしはいいと思うよ。万年帰宅部なのになぜか足はめちゃくちゃ速いって、ある種の才能だと思うし」

「でしょ!?てか万年帰宅部って玲可もヒトのこと言えないじゃん」

「あ、そうだったわ」


ちょっと〜、と肩を叩き合いながら、2人は今日も息の合った会話を聞かせてくれる。


私は、この2人の会話が好きだ。

小学校3年生から今までずっと同じクラスだったらしく、2人にしかできないテンポの会話をいつしか私は好きになっていた。


「…て、昼休みあと10分しかないんだけど」

「うっそ喋りすぎた!」

「私も2人の会話聞き入ってたから、すっかり時間忘れてた」


百叶がきゅっと上げた口角を2人に向けると、2人は一瞬固まったあと、どういうわけか私に目線を移した。


「……まったく、この人罪深いわ、ね、柚?」

「え、えっ?」

「無意識にこのスマイルやっちゃってるんだもん、あたしが男ならソッコーでアウト」


玲可ちゃん、まりなちゃんと立て続けにそう言うのを聞いた百叶は、よくわかっていなさそうな顔を私に向けた。

私も大好きな、百叶のあの笑顔。私も自分が男だったら……うん、きっとあの笑顔を向けられたら、一瞬で気持ちを持っていかれそう。


「……うん、そうだよね、わかる…!」

「え、わかるって、柚、どういうこと?」

「さっすが柚!だよね!わかるよね!」

「この笑顔をずっとそばで見てこられた柚が羨ましいよ」

「てか柚の笑った顔も超〜可愛いけどね!」

「わかる、ザ・癒し系ゆるふわ女子って感じ」

「あたしがどんなに頑張っても手に入らないゆるふわ感よ」


どういうわけか今度は項垂れてしまったまりなちゃんを、玲可ちゃんがなだめているうちに昼休みはあっという間に終わってしまった。


< 33 / 132 >

この作品をシェア

pagetop