きみに想いを、右手に絵筆を
 彼女が好きだと言ったイチゴオレを渡し、俺は先に買ったオレンジジュースにストローを刺した。

 爽やかな柑橘系の甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。

 不意に、「あの」と白河が俺を見て言った。

「どうして絵、描かなくなったんですか?」

 彼女のずばりと射抜く問いに、表情が固まった。白河はジッと俺を見つめたままで返事を待っていた。

「……描けなくなったんだ」

 かっこ悪い、情けないと思いながらも、仕方なく口を割る。

 白河の事を知りたいと思うのと同時に、俺の事も知って貰いたいと思うようになっていた。

「親父が画家なんだけどね。描くたびに親の七光って言われるのが嫌で……」

 空になった紙パックを傍に置き、眼前に右手を掲げた。

「……才能ねーしな。俺の手なんて」

 若干やさぐれた自分に恥ずかしくなり、なんてね、と続けようとすると、彼女の両の手が掲げた右手をギュッと包み込んだ。

「そんな事ないっ! この手は凄いんだって、私は尊敬してる!」

 白河の断固とした態度に、何で、と疑問がわいた。

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