黙って俺を好きになれ
「お待たせしちゃいましたー」

4人掛けの席でエナの隣りに座った彼が、時間を巻き戻したのかと錯覚しそうなふやけた笑顔を私に向けていた。

「取りあえず腹減ってるんでー、食べていっすかー?」

「あ・・・うん、好きなの頼んで?」

「じゃあ唐揚げとー、だし巻き玉子とー、刺し盛りもいっちゃおっかなー」

筒井君は手渡したメニューをめくりながらブザーで店員さんを呼び、オーダーを済ませるとネクタイを少し緩める仕草でエナに話しかける。

「あんまりオレをいじめないで下さいよー?『糸子さんにフラれに来い』ってひどいじゃないですかー」

「!!?・・・ッッ」

むせた。思いっきり。

「ウソ言ったってもう望みないから、さっさとフラれて次に行きなよってハナシ」

「うわ、ほんと容赦ないなぁ~」

「カワイイ後輩思いのセンパイでしょー。じゃああたしは帰るから、あとは二人できっちり話してよ。オトナなんだから、こじらせたりしないでねー?」

きっぱりと言うだけ言ってエナは。狼狽えて引き留める言葉すら出てこなかった私をあっさり置き去りにした。
< 165 / 278 >

この作品をシェア

pagetop