黙って俺を好きになれ
7-3
「なんか朝から元気ないけど、具合わるい?」

お昼休憩で隣りに座ったエナが、お弁当を広げながらこっちを覗きこむ。周囲を気にして声を潜める仕草。

「もしかして彼氏とケンカ?」

「・・・ううん大丈夫。ちょっと寝不足で・・・」

「ほんとだ、クマできてる。帰ったら早く寝ちゃうしかないね」

無理やり口許で笑んだ私に軽く合わせただけで、「聞いてよー」と彼女は自分の話に夢中になった。

羽坂糸子の皮を被ったロボットが相槌を打ち、笑い返しているだけで。目も耳も脳もエナを認識してはいなかった。ここが職場だという理性が、かろうじて手足を動かしているにすぎない。

息はしているけど躰に血が通ってる気がしない。・・・味が分からない、温度もない。麻痺したみたいに。

なにをしていても自分が自分である気がしない。

・・・生きていける気がしない。




あなたが。どこにもいなくなってしまったら。
< 182 / 278 >

この作品をシェア

pagetop