黙って俺を好きになれ
「・・・山脇がどうかしたか」

訝しげに仰がれて首を横に振り、小さく口許を緩める。

「前より少し・・・怖くなくなりました」

「・・・・・・懐くなよ」

喰えないと言いつつ『信用するな』とは言わない。二人を繋ぐものはどこか(いびつ)に見えるけど。山脇さんは最後には幹さんを裏切らない、・・・そんな人にも思えた。

「・・・お前は昔からヤクザを怖がらねぇな。俺が怪我してても平気で寄ってきただろうが・・・」

「幹さんだから怖くないだけですよ」

私が言うと、微かに笑んで長く息を吐いたあなたがゆっくり瞼を閉じた。傷に障るのが心配になってそっと声をかける。

「・・・少し休んでください。無理は駄目です」

「ここにいろ・・・イトコ」

薄目をこっちに向けた幹さんはややあって、気怠そうに口を開いた。

「・・・どこにも行くな・・・」

「大丈夫です、山脇さんにお願いして朝まで一緒にいますから・・・」

あやすように髪を撫でてあげると間もなく意識が落ちた。血色も悪くない気がする。穏やかな呼吸に深く息が漏れた。

今を噛みしめる。誰に向けてるでもない“ありがとう”が溢れてくる。ひどく幸せな気持ちで、ありがとうが。

蛍光灯に照らされた部屋が明るいと思えたのが、すごく久しぶりだった。目に映る光景がちゃんと色付いて見えるのも。

・・・温かい。嬉しい。眩しい。あなたがいるから、私の世界はこんなにも。






15分だけだと、にべもなかった山脇さんが戻ったのは30分以上経ってから。出来たてのお弁当と、まるで先を読んでいたかのように毛布を一枚、私に差し出して『帰れ』とは一言も言わなかった・・・・・・。

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