黙って俺を好きになれ
8-3
引っ越し当日、朝の9時に山脇さんが作業着の二人を連れ玄関先に。ドアを開けた瞬間、トップをオールバック気味に黒いシャツを着たスーツ姿は、ドラマでよく見かける闇金の取り立ての人かと。

「後は全部やらせる、鍵をよこせ。嬢ちゃんは要る荷物(もん)だけ持って下に来い」

挨拶もそこそこに鍵を渡し、貴重品と身の回りの必需品を詰め込んだボストンバッグとトートをひとつずつ。ショルダーを幼稚園がけして慌ただしく外階段を降りる私。

部屋を出る前に運送屋さんに『よろしくお願いします』と声をかけた。帽子にマスクもしていたし、入って来た時はまともに顔も合わせていなかった。よく見たら同い年くらいで、二人そろって『お疲れッス!!』と少し緊張気味に返された。・・・なんとなく悟った。たぶん山脇さんの部下の部下かなにかで、私のことがどう説明されてるのかも。

4年住んだ感傷に浸る間もなく、『KG・PORTER』とロゴの入った2トントラックを横目に前方のセダンに乗り込んだ。

「お待たせしました・・・っ」

返事の代わりに車は滑り出し、足許に置いた荷物を気にしながらシートに躰を沈めると小さく息を吐く。
< 214 / 278 >

この作品をシェア

pagetop