黙って俺を好きになれ
「糸子センパイに誘ってもらえるなんて嬉しいなー」

向かいの席に座ったスーツ姿の筒井君がさっきからずっと、ふにゃふにゃ笑っていた。
というか。いつ私が誘ったんだろう、不思議すぎる。しかもお店を指定したのは彼で。

「ここ、けっこう人気なんですよー?クリスマスに予約取れるなんてラッキーっすねー」

「そう、なの?」

「そーなんですよー」

悩みなんか一つもなさそうな爛漫な笑顔に見えるんだけど。エナの思い違いじゃ・・・?

今年はイブが木曜日、今日は金曜日。週末とあって、連れて来られたトラットリアは満席。カップルが多くメニューもクリスマス限定のコースになっているらしい。

6時半に会社の最寄り駅で待ち合わせをして、そこから1回乗り換え。30分ほどでかなり大きな駅に降り、建ち並ぶビルの1階に品良く構えられたこの店に案内されたというわけだった。通勤は私服とはいえお洒落にはほど遠い無難なコーディネイトだし、気後れしそうだったのを二度目はないだろうと開き直った。

「筒井君が元気がないってエナが心配してたけど仕事の悩み?私でよければ聞くけど」

前菜の盛り合わせをいただきながら訊ねてみた。

「えー、せっかくセンパイと楽しくゴハン食べてるのに仕事の話なんかしませんよー」

・・・・・・・・・・・・・・・。

キミの悩み相談でここに来てるんじゃなかったっけ、私。
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