黙って俺を好きになれ
耳の奥に残った言葉を噛み砕いていく。欲しがり。自分の命に執着がない。・・・思い返してみれば。

婚約者だった人に凶刃を向けさせたり、無茶を通り越す嫌いはあると思う。私に止められる?どうにかって、どうしたら。

だけど取り返しがつかなくなって後悔するよりは。何度でも声にして届かせるしか。振り払われても諦めずに縋りつくしか・・・!

胸のうちで深呼吸をひとつ。
自分に言い聞かせるように呟く。

「幹さんは死なせません。・・・私が歯止めになります、何がなんでも」

(いら)えはないと思っていたのに、ふっと緩んだ気配に顔を上向かせた。

「・・・なら、せいぜい嬢ちゃんが先にくたばるなよ」

肩越しに山脇さんの視線が流れる。ほんの一瞬、薄く口角が上がって見えた。・・・百年に一度の大雪が降るかもしれない。春なのに。
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