黙って俺を好きになれ
まだ温んでるカップを両手で包み、記憶を辿って思いをつなぎ合わせていく。

「・・・一緒にいて居心地悪いって思ったことはないし、わりとハッキリ言う子で、少しくらい押しが強い人のほうが私には向いてるのかな・・・って思ったり」

「つき合ってみたい気持ちはあるんだ」

「・・・それがよく分からなくて」

恋人っていう特別な存在が欲しい。という憧れや欲求がそもそも今の自分にはあまりない。“筒井君を好きだからつき合いたい”。・・・だったら、とてつもなく簡単なのに。

思わず溜息が零れ、横でカップをとん、とカウンターに置く音がする。

「トーコに一番してほしくないのは、相手を傷付けたくないとか、悪者になるのが恐くて自分を誤魔化すことかな。・・・分からないならそれも答えだとボクは思うし、その時の気持ちから逃げないで正直でいるのが、一番トーコらしい」

誤魔化さないで、逃げない。

梨花の言葉にはいつも余計なものがないせいか、薬が溶けるようにすぅっと効いてくる。薄く濁ってた心の中の見通しが良くなってる気がする。

「そう・・・だよね。嫌いじゃないのは確かだし、まずはちゃんと向き合わないとだね・・・」

「もし迷子になりそうだったら、いつでもボクにSOSちょうだい。一人で悩むよりは二人のほうが早く出口が見つかるよ」

「うん。ありがとう、梨花に話してよかった。高校の時も梨花にはよく話を聞いてもらってたよね」

少しはにかんで笑うと、彼女から淡く微笑みが返る。

「トーコはなんでも一人で頑張ろうとするから放っておけないんだよ、昔から」




卒業してからはこうして毎年一回、顔を合わせるかどうか。ときどきラインをやり取りするくらいの距離でも、相変わらず梨花は“お姉さん”でいてくれる。

それがなんだかすごく嬉しくて、心強くて。改札口で見送ってくれたときも、後ろを振り返りながら何度も手を振って。

電車に揺られながら、筒井君はどんなお正月を過ごしたのかほんの少しだけ、気になった私だった・・・・・・。




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