必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
「エイミ。お前の手も真っ赤だ。医者に診てもらうから、おいで」

 言われて初めて、エイミは自分の左手も腫れていることに気がついた。
 シェリンを抱き上げるときに鍋にでも触ったのだろうか。

「私は大丈夫です。痛くもなんともないですし」
「痛みがなくとも、きちんと処置をしないと跡が残るかもしれないぞ」
「……私の手なんて、どうでも。それよりシェリンの足が……あのキレイな肌に傷跡が残ってしまったら、どうしよう」

 エイミの目に、また涙が浮かぶ。

(あぁ、私が泣いたってどうにもならないのに。あんなに小さな子に怖い思いをさせてしまった)

「いいから。さっさと来い」

 ジークは怒りを滲ませた声で言って、エイミを引きずるようにして医者の元へと連れて行く。

 火傷はエイミが思っていたより重症だった。皮膚が剥けてしまっていて、完治まで結構な時間がかかるらしい。

「君は直接、鍋に触ったな。さっきの子供よりよほど酷いぞ。でもまぁ……目立つような跡が残ることはないだろう。この薬を毎晩きちんと塗りなさいな」

 医者はそう言って、小さな丸い薬入れを差し出した。エイミはそれを受け取りながら、彼に問いかける。

「あの、シェリンは大丈夫でしょうか?」
「あぁ、あの子の方は大したことはない。すぐに患部を冷やしたのもいい対応だったね」
 
 エイミはほっと、心の底から安堵した。
 不吉な黒髪・黒い瞳で、どのみち嫁にいくあてもない自分はいまさら傷跡がひとつ増えるくらいどうってことはない。シェリンが無事なら、それでいいのだ。
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