ぜんぶ、嫌いだけど


机の上に置いていたカバンを手に取ると、近くの席に座って三人で喋っているクラスメイトに声をかけられた。



「ちー、帰るの?」

「うん、用事できた」

軽く手を振って、またねと言葉を交わして教室をあとにする。

肩にかけたカバンは硬くて、ずしりと重たい。

紺色の靴下は足にまとわりついているみたいで不快で、襟元に溜まった熱気は鬱陶しい。



————夏は嫌いだ。




水道のところに着くと、いつのまにか女子たちに囲まれて喋っている。

帰るなら私じゃなくて、あの子たちと帰ればいいのに。



「全然椎名ちゃん悪くないって!」
「そうだよー! 椎名ちゃんって優しいし可愛いのに不満持つほうがおかしいよ〜」


そんな会話が聞こえてきて、思わずため息が漏れる。

なるほど。最近彼氏とうまくいってないから、今日は一緒に帰らないということなのか。



「いつも尽くしてて、本当尊敬する」
「それなのにあんな態度しんじられないよねぇ。椎名ちゃんがかわいそう」


あの輪の中にいると、ひとりだけ垢抜けていてよく目立つ。

綺麗な薄茶色の髪には天使の輪が見えて、毛先は内巻きにカールされている。


淡く色づいた唇が動くたびに、甘ったるい声が聞こえる。


目尻にはキラキラとしたラメが施されていて、瞬きをするたびに長い睫毛が影を落とす。



彼女を見れば、口を揃えて〝かわいい〟と言う。
それが私の腐れ縁な幼なじみ。




「夏那」

名前を呼ぶと、花が咲いたように彼女が笑う。





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