クールな王子は強引に溺愛する

 相手はリアム様だと言ったら、驚くかしら。

 けれどそれは何故だか口に出してはいけない気がした。口に出した途端に叶わなくなる願い事のような気がしているからかもしれない。

「そうでしたか。おめでとうございます。それでしたら尚のこと。ご婚礼前の大切な時期です。お嬢様を傷モノにしていいわけがございません」

 頑なに折れない修道院長の態度にエミリーの方が折れ「ごめんなさい。無理を言って」と謝った。

「では、もうひとつの方は……」

 修道院長には蜂蜜の他に珍しい植物の栽培もお願いしていた。
 しかしこちらは質問した途端に渋い顔つきに変わり、芳しくない状況が伺える。

「それについてはまだまだ夢のまた夢ですね」

 珍しい植物が育てられれば、間違いなくエストレリア伯領の名産になる。難しいとしても努力する価値はあるだろう。

「今日は婚約の報告と、修道女になれるようお願いしていたのに、不義理になってしまうお詫びに伺いました」

「そうでしたか。不義理など滅相もございません。わざわざのご挨拶、ご丁寧にありがとうございます。エミリーお嬢様がお幸せになれることがなによりでございます」

 修道院長はニッコリと微笑み、胸の前で十字を切った。

「エミリー様に神のご加護を」

 エミリーも胸の前で両手を握り神に祈りを捧げた。
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