時の止まった世界で君は
「じゃあ、最後。最後に5秒だけ頑張ろう。」

そう言われたなつみちゃんは、ビクッと体を揺らす。

それからフルフルと小さく首を横に振った。

「ごめんな、これが一番痛いもんな。…5秒だけ、5秒で済むから最後頑張ろう?」

「……いやぁ」

とても小さい声だった。

なつみちゃんの目からは涙がとめどなく溢れて、よっぽど嫌なことがわかる。

「ごめんな、これやんないと検査終わらないからさ。」

染谷先生は、そう言うと少しなつみちゃんの様子を伺っている。

…今までも、嫌と言いながら頑張ってきたのをわかっているから、待っているのかもしれない。

それから、しばらく待つと、なつみちゃんはじっと染谷先生の目を見た。

染谷先生が頷くと、なつみちゃんは涙を浮かべながら力なく頷いた。

「よし。じゃあ、最後頑張るか。瀬川、動いたら危ないから固定頼む。」

「はいっ」

これから先は、強い痛みを伴う。

だから、思わず身を捩ってしまう子も多い。

でも、長い針が刺さっている中、大きく体を動かされるととても危険だから、固定が必須になる。

俺が、なつみちゃんの体を固定すると、なつみちゃんはさっきよりも強く目を瞑った。

「いちにのさんで行くからね。行くよ。」

緊張が高まる。

「いち、にの、さんっ」

染谷先生の手に力が篭もる。

「うっ、うわぁぁ…あぁぁぁぁぁ」

よっぽど痛いのだろう。

なつみちゃんは声を上げて泣いた。

「…ごー、…よん、…さん、…にー、…いちっ」

宣言通り、5秒カウントで針が抜かれる。

すぐに、止血のためのガーゼが穿刺部に当てられる。

「よく頑張った。本当によく頑張った。偉いね。なつは、本当に偉いよ。」

ゴム手袋を脱いだ染谷先生は、なつみちゃんの頭を撫でる。

「うぅ…ヒック……ヒックヒック………」

「よしよし。いい子いい子。痛いのに頑張れて偉かったよ。もう大丈夫だからな。」

そう言った染谷先生の表情は、どこかほっとしていて、染谷先生もかなり気を張っていたんだなと気付く。

これで、一段落。

これから、結果や先行きがどうなるかはわからないけど、ひとまず大きな山を超えたと思ってもいいのかな。

染谷先生となつみちゃんのやり取りをみて、そう少しほっとした。
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