時の止まった世界で君は
「端的に言うと、俺さ……なつの主治医務める自信、無くしちゃったんだよね。」

染谷先生は笑いながら言ったものの、その目は仄暗く、寂しい色をしていた。

「…なんつーかさ、俺らって常に冷静な判断を求められるわけじゃん?……それが、なつの前になると調子狂うっていうか…、どうしても感情移入しちゃうんだよ…… 」

ああ、そういうことか

何となく先生の言いたい事の察しはついた。

「だから、俺は務めるべきじゃないかもなって思って。…俺の判断ミスで、なつに何かあったら大変だから……」

よく、医師の間で言われることがある。

身内切りはするな。

理由としては、身内ということからつい私情が入り、正確な判断が出来なくなってしまうからだ。

簡単な診察ならまだしも、身内で主治医を務めるのはほぼ禁忌となっていた。

染谷先生にとって、なつみちゃんは身内ではないけれど、ずっとこれだけ一緒に過ごしきたんだ…ほぼ身内のようなものだろう。

それで、染谷先生は感情移入をしてしまうことを恐れて…ということか。

「…成程。理解はしました。……でも、先生の後任は誰が務めるんですか。」

「そうなんだよね……」

そう言うと、染谷先生はまた乾いた笑いをした。

先生の目に浮かぶのは不安の色ばかり。

でも、当たり前か…

ずっと付き添って診てきた子を任せるとなると、相当信頼を置いている人か、腕のいい先生しか……




「…瀬川、お前やってくれない?」



「え………」
< 20 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop