時の止まった世界で君は
コンコンッ

「失礼しまーす。なつ、おはようー」

「あ!ひろくん!おはよう!」

"なつ"そう呼ばれた少女は、元気いっぱいな様子でそうこたえる。

「佐野なつみちゃん。髄芽腫の治療で入院中だけど、この前寛解して今は退院に向けて調整しているとこ。」

「そうだよ!なつ、もう退院するんだ!うふふっ」

楽しげに笑ったなつみちゃんに俺まで笑顔になる。

すると、突然なつみちゃんはハッとした表情になり、俺を指さす。

「ひろくん、この人だーれ?」

「あぁ、今日からここで働く新しい先生だよ。」

染谷先生に目線を送られ、慌てて挨拶をする。

「えっと、瀬川星翔です。…なつみちゃん?今日からよろしくね。」

そう言うと、なつみちゃんは笑顔で頷く。

「うんっ!でもね、なつみちゃんじゃなくて"なつ"だよ!なつってよんで!」

「う、うん。わかった。じゃ、じゃあ、なつちゃんよろしくね。」

「なつちゃんだって~、うふふ、変なの~」

ケラケラ笑うその姿は元気そのもので、脳腫瘍の子だと聞いて少し身構えていたが拍子抜けしてしまった。

「はいはい、じゃあ診察をするからね。お腹出してー」

「えー」

染谷先生となつみちゃんの会話はとても慣れているようだった。

なつみちゃんは、わがままを言い、でも染谷先生もいつもの事だと言わんばかりの雑な受け流し。

結局、数分で診察は終わり、俺と染谷先生は病室を出た。

「なつみちゃん、とても元気な子でしたね。」

「まーね。なつは元気で明るいことが取り柄だから。」

病室を出て、カルテを記入しながら染谷先生はそう答える。

「先生となつみちゃんは、だいぶ長い付き合いなんですか?」

「うん。なつが産まれたばっかりの頃から知ってるから、もう10年以上。なつ、今はあんなに元気だけど、人生の8割方ここで過ごしてるから、俺となつは半分家族みたいなものだな。」

人生の8割という言葉に声を呑む。

「今は元気だけど、色々抱えてんのよ。今回の退院も久しぶりだからさ。…本当は、もうここに戻ってこなくなればいいんだけどね。今回は、長く外に居られたらいいな。」

言葉の節々から、染谷先生がなつみちゃんのことをとても大切に思っていることが感じられる。

長い付き合いだと言っていたし、きっと思い入れも深いんだろう。









これが俺となつの最初の出会いだった。
< 3 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop