時の止まった世界で君は
結局、なつは納得はしない様子のまま力なく頷いた。

晴れない表情のなつに改めて瀬川を紹介し、これからの治療方針を軽く説明した。

その間も、なつはずっと上の空で、あまり耳に入っていない様子だった。

そうこうしているうちに、次の検査の時間が迫り、泣く泣く病室を離れることに。

なつ、変に考えていないといいんだけどな

とにかく、なつの様子が心配だった。

この調子のまま治療に入るとなると、精神的に参ってしまう気がする。

ただでさえ、今までも治療中はかなり病んでしまう様子だったし、精神も通常時より退行して幼くなっていた。

その状態のなつに、治療が耐えられるのか、正直不安しかなかった。

幼くても…、いや幼いからこそ、なつは人の感情や動きに敏感だ。

今まで、ずっと積もりに積もって来た悲しみや苦しみがいつ崩壊するかわからない。

今日も少し崩壊しかけていた。

だから、なつの心が壊れてしまわないか、本当に心配しかなかった。

なつは人に離れられることを極端に恐れる。

それは今までの経験によるものだろう。

だからこそ、今回は、俺が離れていかないことをなつにちゃんとわかってもらわないといけない。

なつが、どうしたら一番楽で居られるか、安心する環境を作ってあげられるか、それが俺の課題だ。
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