時の止まった世界で君は
「じゃあ、頑張らなくていいよ。」

そう言うと、なつは驚いたように俺の顔を見る。

「病気はさ、治して欲しいよ。俺はなつに元気に過ごして欲しいから。…だから、治療は受けて欲しい。でもね……、頑張らなくてもいいから。っていうのは、辛いの苦しいのをひとりで我慢しなくていいんだよってこと。辛い時は辛いって教えてくれたら、辛さを取る治療をしてあげられるし、苦しい時も苦しくないようにしてあげられる。だからさ、……強がらないで、もっと俺たちを頼ってよ。」

ニコッと笑ってそう言うと、なつはクシャッと顔を歪ませる。

「なつはさ、頑張り屋さんだからいつも頑張りすぎちゃうんだよ。1人で我慢して頑張ろうとしちゃう。…そうじゃなくてさ、辛い時は辛い、苦しい時は苦しいってもっと言っていいから。」

小さい時からそうだ。

嫌だ嫌だといいつつも、結局は我慢してひとりで色々なことを抱え込んでしまう。

普段わがままなのに、治療になると途端に我慢ばかりしてしまう。

熱が上がってきて辛いのも、吐きそうなのに吐けなくて苦しいのも、いつも我慢して俺が部屋に行くまで何も言わない。

俺が見つけると、大抵顔を真っ赤にして涙目になってうずくまっている。

今回の治療は、また長丁場になる。

だからこそ、なつには我慢はしてもらいたくなかった。

主治医が変わって、ただでさえストレスを与えてしまっているのに、辛いことまで我慢してしまえば、本当になつの心が壊れてしまう。

それだけは阻止したかった。
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