時の止まった世界で君は
病室近くへ着くと、看護師さんの言う通り泣く声が廊下まで響いている。

「なつー、どうしたー?」

そう言いながら、病室に入ると、多分連絡をくれた困り果てた様子の看護師さんと顔を真っ赤にしたなつがいた。

「なつ、これいや!はずす!」

顔が赤いのは、熱のせいか?

熱のせいなら、それで機嫌を損ねてグズってるのかもしれないな。

「ごめんね、なつ。これは外せないよ。」

「なんで!なつ、これいやなの!はずしたい!」

「…でも、これはなつの病気を治すためにお薬を入れてるからさ、これないとなつもっと具合悪くなっちゃうよ?」

そう言うと、なつは一瞬困ったような表情をするも、またさらに涙を多くして泣き始める。

「いやなの!ぐあいわるくてもいいもん!いやなの!いやいやいや!」

これは、看護師さんが困り果てるのもわかるな…

「そっか、嫌なのか。…どうして嫌?」

「なつ、これあるとぐあいわるくなるの!なつも、これはずして、ぷれいるーむいきたいの!」

……そっか、そうだよな…

ここは、どうしても子どもたちの声が響き渡る。

もしかしたら、プレイルームに遊びに行く子たちの声がなつにも届いてしまったのかもしれないな。

「……そうだよね、なつも遊びたいもんね。」

そう言うと、なつは明らかにシュンとしてこくんと頷く。

「このお薬はね、なつを苦しめたくてやってるんじゃないよ。なつが、早く元気になってみんなと遊べるようになるために使ってるんだよ。わかるかな?」

…………コクン

「治療、辛いよね。ごめんね。でもね、1週間、あと7日頑張ったら、1回休憩にするからね。そしたら、その間は好きなだけ遊べるからさ、もう少しだけ頑張ってみない?」

そう言うと、への字に曲がっていたなつの口元がさらにクシャッと歪む。

「………なつ、あそびたい…」

とても弱々しく消えてしまいそうな声だった。

「……うん。早く遊ぶために、もう少し頑張ろう?」

「………………」

しばらく黙ったかと思うと、なつは急にワッと声を上げて泣き始めた。

ごめんね、いっぱい遊びたいよね。

みんな、遊んでるの横目にベッドに居ないといけないのは辛いよね。

俺は、さらに顔を真っ赤にして泣いているなつを抱きしめて、背中を大きくさすった。

熱いくらいの体温が、ずっと伝わってきた。
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