時の止まった世界で君は
「怖い夢みた?」

一度看護師を退室させてからそう聞くと、なつはフルフルと頭を横に振る。

「じゃあ、何があった?」

そう言うと、なつは今にもまた泣き出しそうな顔をして、ギュッと俺の服を掴んだ。

「………はーくん」

「ん?なに?」

「……はーくんは、なつのこと、すき?」

「もちろん。好きだよ。どうして?」

…また、昔のこと思い出しちゃったのかな。

なつは、昔からたまにこうなる……

「………ひろくんは、なつのことすき?」

「うん。それももちろん。宏樹なんて、なつのこと大好きすぎるくらいだよ。」

なつの表情がまた辛そうになる。

「……みんな、なつのことすき?」

「うーん、それはみんなに聞いてみないとわからないなあ。…でも、少なくとも、なつの周りにいる人たちはなつのこと好きだと思うよ。」

「…そっか………」

昔からの癖だった。

なつは、周りの人が自分を好いてくれてるか、定期的に確認してくる。

「……なつの、ぱぱとままは、なつのことすきかなあ…」

「………なんで?」

「…だって、ぱぱとまま、ずっとあえないから。ぱぱとまま、なつのことまちがっておいていっちゃったのかなあ……」

「…………そうかもね。」

明確な返事はしてあげられなかった。

なつは、いつも健気に自分の父親と母親が帰ってくるのを待ってる。

"置いていかれた"ってことは理解してるけど、それが何故かは知らない。

今も、帰ってきてくれると思って待ってる。

「でもさ、今はいいじゃん。パパとママいなくても、なつには宏樹も居るし、俺も居るし、瀬川先生?も居るじゃん。」

そういうも、なつの表情は晴れない。

「…………みんな、なつのこと嫌いなのかなあ…」

「なんでそう思うの?」

「……だってね、みんな、なつのこといやそうにしてるよ。…なつ、しってる。なつみたいなの、"めんどくさい"っていうんでしょ?」

…………

思わず、声が出なかった。

誰だよ、そんなこと言ったやつ。

「…めんどくさい?そうかなあ、俺はそう思わないけどね。俺も、宏樹も、瀬川先生もきっとなつのこと大切で大好きに思ってるよ。だから、気にしないでいいんだよ。」

そう言うと、また、なつの大きな瞳から涙がぽろぽろと零れた。

「なつ、"めんどくさい"じゃない?なつ、"じゃま"じゃない?」

「うん。なつはめんどくさくも無いし、邪魔でもないよ。大丈夫。安心して。俺たちはなつのこと大好きだからね。…今日は、きっとなつも疲れてるんだよ。もう寝ちゃおう?」

……こくん

なつの涙を拭い、背中をぽんぽんと優しく叩く。

「大丈夫。大丈夫だよ。俺たちはずっとなつの味方だからね。」

なつの抱きつく力が少し強くなった気がした。
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