時の止まった世界で君は
屋上を出て俺はその足で医局には戻らず病棟へ向かう。

朝の回診をして、そのついでになつの病室に寄る予定だ。

俺は未だに悶々とした気持ちでいた。

もちろんなつのことでだ。

なつはこれまでに何度も施設に入るのを拒否されてきていた。

理由は簡単、"何かあったら困るから"だ。

でも、今回の施設は施設長さんが寛容な人で快く入所を受け入れてくれた。

俺も、何度か施設長さんと面談をし、施設の見学もし、今度こそなつにとって良い"帰る場所"になると思っていた。

でも、幡也が言った通りなつのことを"めんどくさい"と思うスタッフも居たんだろう。

まあ、人だからどう思うかは変えられないし多少仕方ないことだと思う、でも

……問題なのは、それがなつに伝わってる___つまり、なつの前で直接言っているか、なつの耳に入るほど大きな声で話しているかというところだろう。

なつに直接言っているなら、…それは確実に悪意を持った暴言だ。

もし、これが事実なら、確実に見過ごせない。

明確な悪意の矛先に立たされることは、大人でもかなりのストレスになる。

ましてや、まだ心も幼いなつなら尚更だろう。

沢山傷ついているはずだから、ケアをすると同時に、施設側にも事実確認をする必要がある。

次に、なつに聞こえるほどの大きな声で会話をしている場合…

その場合も黙って見過ごす訳にはいかない……

だって、なつに聞こえるってことは周囲のスタッフや子どもたちにも聞こえる声で話していることになる。

周囲のスタッフに聞こえているなら、それを注意するスタッフがいないのも問題だし、その会話を聞いた子どもたちが、そういうことを言っていいと思ってしまうのも問題だ。

……やはり、どちらにしても一度施設側と話し合う必要は出てきそうだな。

なつの楽しそうに笑う顔が脳裏を過ぎり、いたたまれない気持ちになる。

ああ、はやくなつの笑顔が見たいな。
< 58 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop