時の止まった世界で君は
いくらなつが嫌がっても、地球の自転の周期は変わらないわけで、いつものように朝はやってきた。

俺は、なつよりも早い時間帯からの手術となるので一度なつの病室へ向かい、まだまだ眠っているなつの頭を撫でてからまた医局へ戻った。

医局へ入るとその足で瀬川のデスクへ向かう。

「おはよう」

「あ、染谷先生。おはようございます。すいません、今ちょっと資料整理してて…」

みると瀬川のデスクの上には今日の手術に関する大量の書き込みがされた資料がある。

直前まで勉強してたのか…

改めて、真面目すぎるくらいな瀬川の熱意には驚かされる。

「ああ、いや、なんも手止めなくていいよ。…ただ、今日はよろしくなって言いに来ただけだから。」

口に出すと改めて心に重くのしかかるものがある。

今まではほとんど、なつの治療は俺が行ってきた。

だから、もちろんなつの命もそれに関する責任も、俺が背負ってきたわけだけど…

別に、瀬川に任せるのが怖いわけじゃない。

瀬川はこうやって昨日から今日のこの短時間で十分すぎるくらいに準備もしてくれているし、腕も確かだ。

その点においては信頼をおいている。

けど…、やっぱり親心なのかな……

誰かに責任を持ってもらうことが怖い。

きっと、世界一腕のいい医者と言われる人であっても、大切な人の命を預けるのは怖いだろう。

「…本当、頼む。なつを…、なつみをよろしく頼んだ。」

心からの願いだった。

どうか無事でなつが戻ってこれますように。

俺は深々と頭を下げた。
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