透明な世界で、ただひとつ。
その日は朝から病院にいた。
日に日に視力は落ち、今は堺が一緒でも白杖が手放せなくなっていた。
もう、目が見えているのかも判断がつけられないほどしか、光があるかどうかぐらいしかわからない。
診察を受けて午前中で帰ろうとしていた。
「瑞希、お会計済ませてきたし行こっか。」
「うん、ありがと。」
白杖を持ち直し、堺の腕にそっと掴まった。
「お昼、何食べたい?」
「カレーの気分です。」
「りょーかい。じゃあ駅前行こっか、歩くよ。」
かんかん、と床と白杖が音を立てる。
自動ドアが開く音がして、私は久しぶりに遮光の眼鏡を下げて外の光を見た。
ふっと視界が霞み、目を擦る。
「え?...堺、ちょっと待って。」
「ん、どうした。」
世界は霞んだまま、戻ってこない。