花屋敷の主人は蛍に恋をする


 何かを感じとったのか、目を見開いた後に、尾崎はニヤリとして「なるほどねー」と、含み笑いを見せながらそう言った。

 「可愛い菊那ちゃんに、1つプレゼントをあげようかな」
 「あの私、そろそろ…………」
 「史陀の秘密を知りたくないかな?」
 「………樹の秘密………」


 その言葉に菊那を思わず後退しようとした足は止まってしまった。
 尾崎は樹の大学からの友人だという。と、なると菊那の知らない事、樹が話してくれない事を知っているのではないか。
 そんな期待感を持ってしまう。


 「あなたから聞く事ではないと思います」
 「確かにそうだね。史陀本人から聞くべきだ。けど、史陀は話してくれると思うのかい?」
 「…………それは……」
 「だから、僕からプレゼントだ」


 迷ってしまった菊那に、尾崎が手渡したもの。それは1輪の花だった。彼がバックから取り出したのは、ピンク色が混じった紫の花だった。触角のような長いものが花から出ており、小さな花が何個も咲いている、とても豪華な花だった。

 菊那はそれを受けとるのは躊躇ってしまう。すると、尾崎はすぐに「大丈夫。これは史陀の庭に咲いていた花だよ」と教えてくれた。
 菊那は恐る恐るその花を受けとる。なぜ、尾崎がこんな事をするのか考えが読めないのだ。



 「………それじゃあね。ヒントはその花」



 そう言うと、尾崎は小さく手を振りながら住宅街の道を歩いて行ってしまった。
 残されたのは菊那と紫の花だけだった。



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