花屋敷の主人は蛍に恋をする



 「………これは、もしかして、花枯病……」
 「あら、知っていたのね。見るのは始めて?」
 「えぇ……レポートぐらいで。………まるで魔法みたいだ」


 思わずそんな言葉が口からこぼれてしまうと、その女は隣でクスクスと笑った。


 「魔法だなんて初めて言われた。呪いの間違えでしょ?」
 「………花枯病は呪いなんかじゃないですよ」
 「あら、あなたは何か知ってるの?」
 「………一応植物学の准教授です」
 「………そうなの。でもこんなに綺麗に咲いている花なのに枯れてしまうなんて、私にとっては呪いでしかないわ」
 「…………」


 実際に病気で苦しんでいる本人話しているのだ。それを否定する事が出来るはずもなく、返事に困っていると、その女はすくっと立ち上がった。


 「私、碧海(あおみ)っていうの。あなたは?」
 「史陀樹です」
 「……史陀樹って………すごいね。植物に愛されてる名前で羨ましい」
 「そうだといいんですが」
 「………私も植物に触ってみたいけど、触れないの。どんな香りでどんな質感なのか。教えて欲しいな」
 「私でよければ」
 「ありがと」


 そう言うと、碧海はにっこりと笑った。
 それなのに、樹には不思議と泣いているように見えたのだった。
 
 
 



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