花屋敷の主人は蛍に恋をする




 「碧海さん。今度、大学の敷地にある植物園に来ませんか?一般開放日もあるので、その時にでも」
 「……………え」
 「あ、碧海さんが良ければですけど」
 「………私が行ってもいいの?」
 「え………」
 「花枯病の人が行ってもいいのかな?って……今まで、行けるとも思った事なんてなかったから………」


 碧海は驚いた表情をしながらも、キラキラとした瞳で樹を見ていた。それは、期待と嬉しさに満ちた輝きだと樹はすぐにわかった。

 「いいんですよ。もちろんです。当日は私がご案内しますね」
 「………うん!あ、これってデート?」
 「え………そ、そういう訳では………」
 「ふふふ、冗談よ。でも、楽しみにしてるね」
 「…………はい」


 子どものようにはしゃぐ年上の碧海を見て、樹も思わず笑みがこぼれた。
 こんなにも喜んでくれるとは思ってもいなかった。誘ってよかった。
 その時の樹は、そう思って自分の行いは間違えではなかった。そう思っていた。

 その日が来るまでは。







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