花屋敷の主人は蛍に恋をする




 きっと樹は一人で抱え込んで、花枯病と戦ってきたのだろう。それは、まるで花枯病を患った人たちと同じように悩んで苦しんで、そして寂しかったのだろう。

 けれど、こんなに立派な花屋敷を作り、花枯病である菊菜、そして碧海を救おうとしてくれたのだ。

 ずっとずっと………一人で。


 「樹さん、いつも助けてくれて、ありがとうございます。花枯病の人の花を作ってくれてありがとう。………だから、今は我慢しないで泣いて、そして休んでください」
 「…………菊菜…………ありがとう、ございます………」


 菊菜の耳にはいつもとは違う、樹の震える声が届いた。
 菊菜の背に彼の手が回される。
 その手は先程よりも強く菊菜を抱きしめてくれている。けれど、何故か小さく見えてしまう。


 守ってくれて、ありがとう。
 これからは、2人で守り合おう。

 そんな気持ちを込めて、菊菜は樹の柔らかな髪に小さなキスを落とした。


 その頃にはガラスをならしていた雨音は止まり、屋上には晴天の夜空が広がっていた。



 
 

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