花屋敷の主人は蛍に恋をする




 「チョコレートコスモスと一緒にブーケにしてもらったのはイヴ・シャンテマリーというバラです。このうすピンクのバラの名前の由来は、イエス・キリストの母マリアに謳う、という意味のもので、謳うとは褒めるという事です」
 「母を褒める……」
 「えぇ。お母様を大切にしているあなたにはピッタリなものだと思って、プレゼントさせていただきました。それと、これを………」


 樹は、そう言うとコートのポケットから小さな小瓶を出した。表には可愛らしいお菓子の絵が書かれたパッケージシールが貼られていた。


 「これは………?」
 「チョコの香りがする香水です。お部屋に吹き掛ければ、きっとお母様も喜ぶのではと思いまして。おせっかいだったでしょうか?」
 「ううん!欲しい………です。ありがとうっ!」


 紋芽は目を輝かせながらそれを受け受け取る。そして、すぐにその香水を空中に吹き掛けた。すると、その場所にふわりとチョコレートとバニラのケーキのような甘くおいしそうな香りがひろがった。それを感じて紋芽は「わぁ……」と小さな歓声を上げたのだ。菊那もそんな子どもらしい紋芽の姿を見て、つい笑顔になることが出来た。


 「紋芽さんは今から病院ですか?」
 「はい。すぐに母さんの所へ行きます」
 「今日は寒いですので送りますよ。今日は予定がなかったのでドライブをするつもりだったのです。もちろん、菊那さんもどうぞ」


 そう言って樹は手に持った車のキーを見せて優しく微笑んだのだった。




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