きみがため
空き教室の方は、すっかり片付いている。

理科室はどうだろうと、隣に向かった。

確認出来たら、桜人に言われたように、増村先生に報告しないといけない。

入り口から理科室の中を見ると、すっかり片付いていた。

実験台のひとつに男子が二・三人集まって、話し込んでいただけだ。

もう大丈夫、と判断して喫煙室に向かおうとしたそのとき。

「あ、水田!」

男子の輪の中にいた斉木くんが、私を見て声をあげた。

一緒にいる男子も、いつも斉木くんとはしゃいでいる賑やかなタイプの人ばかりだったけど、今はやけに深刻そうな顔をしている。

「どうしたの?」

手招きされ、彼らの方に近づく。

すると斉木くんが、「お前、知ってた?」と小声で聞いてきた。

「小瀬川が、俺らより年上ってこと」

「……え?」

軽く動揺していると、「付き合ってるのに、知らなかったの?」と男子のひとりが茶化すように言う。

「別に、付き合ってないから」
声が小さくなってしまったのは、今でははっきり、桜人のことが好きだと実感しているからだろう。

否定はしても、心の中では、私はそれを望んでいる。
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