きみがため
初時雨

文化祭が、終わったころからだった。

桜人が、文芸部に来なくなった。

はじめは、バイトが忙しいのだろうと思っていた。

だけど翌週もその翌週も部室に来なくなり、教室で目が合うこともなくなったとき、避けられているのだと気づいた。

同じ教室にいても、私たちの空気が交わることはない。

近くて遠い、そんな距離感。

まるで、二年になったばかりの、あの頃の関係に戻ったかのよう。

だけどあの頃と違うのは、桜人が文化祭をきっかけにクラスに馴染んでいるというところだった。

相変わらず一匹狼ではありけど、実は頼りがいのある桜人の周りには、いつも人が絶えない。

桜人も、クラスメイトに笑顔を見せるようになった。

だけど桜人は、私にだけは笑いかけない。見向きもしない。

私だけに見せていた、あの特別な優しい笑顔も、霧のようにどこかに消えてしまった。

それが、たまらなくつらい。

どうしてって、何度も自問した。

彼を傷つけただろうか。不快にさせただろうか。

だけど思い当たる節がなく、月日だけが無常に過ぎていく。
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