きみがため
小瀬川くんは部室の隅に置いていた黒のスクールバッグを肩にかけると、逃げるようにドアに向かう。

「先輩、また来るの、楽しみしてますから」

「気を付けてね」

田辺くんと川島部長が、口々に小瀬川くんの背中に声を掛けた。

――バイトかな。

そう思いながら、小瀬川くんを見つめていると、横を向いた彼と目が合った。

だけど小瀬川くんはすぐに私から視線を逸らし、文芸部の部室から出て行った。
< 59 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop