きみがため
俺はホッと息を吐くと、客席の中ほど、彼女が座っていたテーブルの片付けに取りかかる。
アイスティーのストレート。

暇を持て余していたのか、ストローの袋が、じゃばら折りの虫みたいな形になっていたのを見て、子供みたいなその仕草に、少し笑いそうになった。

『はると……。よかった、いた』

俺を見つけるなり、開口一番そう言って微笑んだ彼女の顔が、頭にはっきりと残っている。

俺の目にはやはり白く光り輝いて見えるそれは、これ以上ないほど心を揺さぶった。

もっと、笑えばいい。

混沌とした俺の世界が、真っ白な光で染まるほどに。

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