完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件

「おっ、倉橋さん精が出るねぇ」
 
 定時を過ぎ、執務エリアで残務処理をしていると、直属の上司である課長の佐野がふらりとやって来て声を掛けられた。

 40代半ばの彼は細身でメガネが良く似合う。優し気な物腰でマイペース、のほほんとしていて頼りなく見えるが、仕事ではしっかり数字は取ってくるのが不思議だ。
 そしてプライベートでは3人の子どもを持つ優しいパパでもある。

「お疲れ様です。松浦様との話が長引いちゃったのもあって」

「あー、彼が来たのか。あの会計事務所いいお得意先なんだけどねぇ。もし、あんまり嫌だったら担当を変えようか?」

「いえ、大丈夫だと思います」

 今までの経験上、ああいうハイスペックな方々は脈が無いとみると引きも早い。
わざわざ注文先の営業の女に執着しなくても良いわけだから。

「わかった。もし、困るようだったら言ってね――あ、そうそう。明日から海営に一人増えるのって知ってたよね」

「あ、そうでしたね」

 近々海外営業部にキャリア入社があると聞いていた。この時期に珍しいなと思っていたのだ。

「たしか、いきなり部長職でしたよね」

「相当優秀な人材らしいよ。一級建築士の資格を持っていて、オランダで建築関係の仕事をしていたらしい。幹部候補なんじゃないかな」

「えー、それはすごいですね。オランダでお仕事されていたなら色々教えていただきたいこともあるので、ご挨拶したいです」

 海外の最新事情も知りたい。オランダや北欧はファシリティの最先端と言うし、いつか行ってみたいとも思っている。

「OK。折りを見て繋ぐよ。確か名前は結城さん……だったかな」

「……よろしくお願いします」

『結城』という響きに、一瞬返事が遅くなってしまった。

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