完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件

「……うん、私もこの前知ったけど」

「俺も最近知ったんだけど、彼女が憧れの先輩『さえ』さんの事褒めちぎるから、ふと気になってその倉橋という社員を調べてみたら名前が『桜衣』だったらしい」

 響きは珍しくないが、漢字の組み合わせと読み方はあまりない。苗字が違っていても陽真の言っていた「本間桜衣」と同一人物である事はすぐに判明したらしい。
 
「そうだったんだ……」

 なんという巡りあわせだろう。もしかしたらこの名前で無かったら陽真と再会することは無かったのかもしれない。

「最初『君と偶然再会するなんて、運命だ』みたいなこと言った手前、和輝と従弟だって知られたら、偶然でも運命でもなく、君がINOSEに居るって知ってて入社したってバレるんじゃないかと思ったんだよ。だから、カッコ悪くて言い出せなかった」

「そんな事、気にしなくても良かったのに」

 信用されていなかった訳では無かったとわかり、嬉しい。

 「いや、君にはカッコつけてたい」
 
 しかしバツが悪そうにしていた彼は、急に猛烈に照れるセリフをサラリと落としてくる。

「逆にさ、君は可愛いところを俺以外に見せて欲しくないんだよね。可愛くて誰かに掻っ攫われないかと気が気じゃないんだぞ」

「やめてよ……」

 やっぱり彼の可愛いセンサーは故障している。不意打ちに動揺しつつ、桜衣は負けじと言う。

「カッコつけてなくても、結城の事好きだし、いろんな表情、私の前だけで見せてくれたらその方が嬉しい……」

 完璧である必要は無いのだ。彼も私も。それでもお互いの気持ちは重なったのだから。

 こんな自分の事を丸ごと好きになってくれた彼を私は好きになれた。
 
「やっぱり、私たちが巡り会って、今こうしていられるのって運命かもしれないね」
 
 独り言のように本音がポロリと零れ――

 そこで、自分が物凄く恥ずかしい考えを披露してしまっていることにハッと気が付く。

「……って、な、なに言い出してるんだろね私。ゴメン」

 いくら素直になろうと思っていても、これはちょっと居たたまれない。恥ずかしくて急に顔が熱くなる。

 引かれたのではと、怖くて彼の反応が見れない。

 頬を紅潮させたまま、誤魔化すように手に持っていたビールの残りを飲み干そうとしたが、いつの間にか隣に座っていた陽真にヒョイと奪われる。

「――もう、終わり」

「え、なんで」

 まだ残ってるのに。

「これ以上飲んだら、いつかみたいに寝ちゃうかもしれないだろ……今夜は困る」

 そう言うと彼は奪ったビールを桜衣の代わりに飲み干してから言った。

「俺の部屋に行かない?」

「……!」

 何でもないような口調とは裏腹に、彼の視線はとてつもなく熱を帯びて見える。
 桜衣の心臓がドクンと跳ね上がる。

「あぁもう、本当に君は。そうやって煽って……危うくここで襲うとこだった」

「あ……煽る?」

 どのタイミングで!?

「そうだろう?風呂上がりで俺のスウェット着て袖余らせて、逆にハーフパンツから綺麗な足見えてるし、そんな無防備な状態で目の前で酒なんか飲まれたら」

「え、私のせいじゃ無くない!?」

 全部アナタが準備したことじゃないですかと言いたい。

「挙句の果てにそんな可愛いくて嬉しいこと言ってくれたら、我慢なんかできない」

 まあ、今日は我慢する気も無かったけど、と不穏な事まで言う。

 なんか……彼のモードが完全に変わってしまっているような。

 陽真は桜衣の膝の下に流れるように手を差し入れながら「お姫様だっこする?」という。

「ま、待ってっ!自分で歩きます!お姫様抱っこなんて無理っ。重いし!」

 必死で抵抗して立ち上がる。いつのまにか陽真の部屋に行く流れになっているのが解せないが。

「いや、桜衣は軽かったよ」

(……軽かった(・・・)?今まで抱き上げられたことあったっけ?)

 首を傾げる桜衣をよそに陽真は抱き上げるのは渋々諦め、代わりに手を取り2階の彼の部屋へ誘う。

 手を引かれながら桜衣は苦笑する

「結城は、手を繋ぐのが好きなのね」

 今日はずっと手を繋がれている気がする。
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