母を想えば


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『・・・・お願い・・・。』

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『・・・あの子たちには・・
・・・好きな事を・・・。

・・自分達の意思で・・
将来を決めさせてあげて・・・。』

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高校を卒業と同時に出ていったこの家。

ただ、1年に1回。
毎年この日は必ず帰ってくる。


泊まっていくことはしない。
食卓を囲むこともない。

滞在時間はトータルで1時間にも満たない。



人生の終盤を迎えた父、
30代へと突入した兄、
間もなく20代を終える自分。


三者三様でもう良い大人なんだから、そこには必要最低限のやり取りしかない。



「・・・・・・・・・・。」


それでも、父も兄も僕も。

この日だけは、
3人にとって特別な一日。


シンと静まりかえった広く厳格さ漂う本堂。


そこで3人が心を一つにして、
般若心経を詠む大切な時間・・・。



「あれ?父さんは?」


「今着替えてるから、
もう少しで来るよ。」


「・・よいしょっと。

それにしても、なんか毎年1年があっという間に感じるな。」


「兄ちゃん、それ昨年も言ってたよ。」


「あ、そう?」





お焼香の準備を終えると同時に、
禅衣に着替えた父も本堂へと来る。


3人揃ったところで・・・



「仏説摩訶般若波羅蜜多心経

観自在菩薩

行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空

度一切苦厄 舎利子 色不異空
空不異色 色即是空

空即是色 受想行識亦復如是
舎利子 是諸法空相

不生不滅 不垢不浄
不増不減 是故空中」



“星野ナミコ”
22回忌の法要が始まった。
























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