世界でいちばんやさしい夜



はじめて彼女と会ったときの記憶はない。親しかった父親たちに引き合わされたと聞いたけれど、物心ついたときには、ぼくたちはいつもふたりでいた。



いつだって、穏やかな日常は終わりは突然訪れる。

ちいさなすれ違いの重なりから、父と、町じゅうの人々の怒りは想像もできなかった大きさに膨らんで、ぼくたちの恋は知られてはいけない罪になった。





「あと少ししたら、戻ろうか」


彼女と過ごす夜だけが、ずっと変わらずにやさしかった。


「うん」


ことり、とまた肩に預けられた重さに、すべてを捨ててそれだけを選べない現実を突きつけられる。



「泣かないで。わたしたちは、正しいことをするのよ」


そう言ってうすく微笑む彼女のほうが泣いているように見えたけれど、ぼくはただ黙ってうなずいた。






正しさの先にきみがいないなら、もう二度と月明かりをきれいだとは思えない。


世界でいちばんやさしい、最後の夜が終わろうとしている。

















『世界でいちばんやさしい夜』Fin.






< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

泣かないデネブと嘘つきの夢

総文字数/3,488

恋愛(その他)8ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
終わらない嘘は、きみのため 素敵なレビューをありがとうございます。 夢雨さま 2020.05.02
花束はいらない

総文字数/2,927

恋愛(その他)6ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
この恋の結末を、わたしは知っていた。 2019.11.10
ケンカときどきチョコレート

総文字数/9,039

恋愛(ラブコメ)15ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「お笑い芸人にでもなるつもりかよ」 「頭どうかしてんじゃないの?」 あいつとあたしは ケンカ友達 それ以上でも以下でもない はずだったのに 『ケンカときどきチョコレート』 素敵なレビューをありがとうございます。 高山さま 2017.02.01

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop