捨てられママのはずが、愛し尽くされています~冷徹社長は極上パパ~

 控室でひとり、手を握り締めてその瞬間を待つ。

 もうすぐ。もうすぐ私の晴れ舞台がやってくる。

緊張と喜びで胸をいっぱいにしながら待ち続け、化粧台の上に置かれた時計の針を目で追う。

 準備を終えてからずいぶん時間が経っていた。とっくに呼ばれていい時間のはずなのに、なかなか呼び出しの声がかからない。それどころか控室の外から聞こえてくるのは、落ち着かない足音と、なにごとか騒ぐ不穏な声ばかり。

 なにを言っているかまでは聞き取れない。けれど、あまり好もしくない雰囲気だというのは察せられる。

(向こうでなにかあったのかな)

 気になったとしても、ウエディングドレス姿で外へ出るわけにはいかない。うっかり新郎と出会いでもしたら、せっかくのお楽しみが台無しである。

 正装姿は当日、教会までのお楽しみにしたい。そう言った私の言葉を彼はあまり納得いかない様子で聞いていた。どうやらすぐ私を見に来るつもりだったらしく、「我慢しきれるか自信がない」と言っていたのを思い出す。そんな些細なことにも愛情を感じて、またその瞬間への期待が高まっていく。
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