あたしの初恋~アイドルHinataの恋愛事情【5】~

02 営業スマイル。

 
「あ、なーこちゃん、こんにちは。この間のウタステで一緒だったよね? 覚えてるかな?」
 
 目の前にいるあたしの初恋の人は、とびっきりさわやかな笑顔であたしに言った。
 テレビや雑誌で見るのと同じ、いわゆる『営業スマイル』ってやつ。
 
 あわわわ……突然の再会に、シコウカイロ(思考回路)停止。っつーか、いまどういう状況!?
 
「ボクたちのこと、知ってる? 『Hinata』の……ボクが中川で、こっちは樋口」
 
 初恋の人は、『営業スマイル』のまま、ゆっくりとあたしに言った。
 そう。あたしの『初恋』の人は、盟にぃだ。……って、改めていうことでもないね。
 
 盟にぃは、あたしの目を見て、目で何か合図するような顔をした。
 ――――『話を合わせろ!!』
 
 ……あ、そっか。あたしが『高橋諒の妹』ってことを、ちゃんと隠そうとしてくれてるんだ。
 
「あ……、あぁ……こ、こんにちは。えっと、中川サン……と、樋口サン。この間はどうもっす」
 
 あたしは、盟にぃと直にぃにおじぎした。
 ……ん? あれ、諒クンがいない。
 
「あの……あ、えっと、……高橋サンは……来てないんっすか?」
 
 なんか、自分も『高橋サン』なのにこんな言い方、ちょっとフシギな感じ。
 
「あいつね、映画の撮影で、きょうは来られないんだ」
「あ、そ……そうなんっすか」
 
 よかった。諒クンは、あたしの初恋の人が盟にぃだってことを知ってるから、ここに諒クンがいたらショージキ話しづらい。
 
「あら、なーこちゃん、高橋くんのファンなの?」
 
 ……えぇ? 水谷サン、それ、何のジョーク?
 って、そっか。あたしが諒クンの妹だってことはトーゼン知らないんだから、あたしが諒クン来てないって聞いてガッカリしたと思ったみたい。
 
「あっ……や、ち、ちち違っ……」
「違うよねぇ。なーこちゃんは、高橋みたいな何考えてるか分かんないやつより、ボクみたいによくしゃべるような人のが好きでしょ?」
 
 あたしが否定し終わる前に、盟にぃが笑って言った。
 
 うん、うん……。わかってるよ?
 冗談でこの場を乗り切るってことっしょ?
 わかってるけど……。
 
 流せるわけ、ないじゃん!!
 あたし、あたし…………。
 好きなんだよ? ホントに、好きだもんっ!!
 盟にぃのこと、好きなんだもんっ!!
 
「中川は好みのタイプじゃねーみてーだな」
 
 直にぃが、ぎゃははっと笑いながら言った。そうじゃないんだよぉー、直にぃぃっ!
 それを見ていた水谷サンはフフッと笑って、
 
「あらら、中川くん、フラれちゃったの?」
「……みたいですねっ! ざぁ~んねんっ! どーせボクはモテませんよーだっ」
 
 盟にぃは笑いながら、直にぃと一緒にお店の奥へと入っていった。
 あたしは、その後ろ姿をずっと見てた。
 
 盟にぃ……。やっと……。やっと、会えた。
 盟にぃに会いたくて、このゲーノー界に入って、いままで……頑張ってきたのだ。
 13年間、ずっとずっと大好きな人――――。
 
「……なーこちゃん? どうしたの?」
 
 あたしが盟にぃ(と、直にぃ)の後ろ姿を見つめていると、水谷サンが不思議そうな顔であたしに聞いた。
 
「えっ? い、な、なななんでもないっすよ?」
「……あぁぁれ? もしかして……実は高橋くんじゃなくて中川くんのことが好きだとか?」
 
 みっ……水谷サン、鋭どすぎぃぃぃ!
 水谷サンは、(たぶん思いっきりひきつってる)あたしの表情を見て、プッと笑った。
 
「あら……まさか、図星?」
「わ、わかります?」
「ん……分かりやすいと思うわ」
「あぁ……やっぱり」
 
 あたしは、ガクッとうなだれてしまった。
 水谷サンは、そんなあたしを見てニンマリと笑って、
 
「なーこちゃん、大丈夫よっ!! このおネエさんが、ひと肌脱いであげるからっ」
「えっ……!? い、いえいえいえいえっ! そんな、要りませんからっ、水谷サンっ!!」
 
 あたしが顔の前で激しく手を振って、テイチョウ(丁重)に断ろうとすると、水谷サンは、
 
「そんな遠慮することなんかないのよ? まっかせなさいっ!!」
 
 ばしばしっと、あたしの肩をたたいた。
 
 えー……そんな言われたら、おコトワリできないっすよ。
 
 あたしは、らしくもなくアイマイ(曖昧)に「は、はぁ……」と返事をして、ふらふらっとお店の奥へと入っていった。
 
 
 
 
 
 
 えーっと、ここでひとつ。
 あたしの、ちょっとしたトクギ(特技)ってやつを説明しておかなきゃいけない。
 
 アニである諒クンが、『自分の人生に関わる人から光が見える』というトクギを持っているのと同じように、あたしにも、それなりのトクギがある。
 実はあたし、他人の考えているコトが、分かってしまうのだ。
 
 ただし、ブブンテキ(部分的)に。
 しかも、トッパツテキ(突発的)に。
 
 あたしが自分で力をコントロールして、他人の考えてるコトを読み取れるわけではないのだ。
 
 キホンテキ(基本的)には、その人があたしに対して『何かを伝えたい』と思ってるときに、伝わってくることが多い……と思うんだけど。
 まったくカンケーないときに、ポンッと言葉やイメージが飛んでくることもある。
 
 諒クンからなんて、血がつながってるアニだからなのかどうか、わからないけど、ショッチュウ考えてることが飛んでくるの。
 たまに、……ホント、たまぁぁぁに、なんだけど、もんのすごい『エッチなこと』考えてることがあるみたいだから、できればあたしと一緒にいるときはそういうこと考えないでほしいなぁ、と思う。
 
 あたしに、そういうトクギがあるのを知ってるのにね。なんで、そういうこと考えちゃうんだろうね。
 
 男の人って……そういうものなのかな?
 じゃぁ、やっぱり……盟にぃも、そういうこと……考えたりするのかな。
 ……そうなんだろうなぁ……やっぱり。
 
 
 
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