7・2 の自尊心




振り向かなくてもわかる、声の主は、わたしの上司であり、恋人でもある、戸倉 隼人(とくら はやと)さんだ。

一般人であるのが信じられないほどのイケメンで、仕事ができる上、人当たりのいい優しい性格の隼人さんは、社内でも一、二を争う人気だった。


たまたま新入社員研修で担当してもらい、そのまま同じ部署に配属になったことから親しくなったわたしは、女性社員からずいぶん羨ましがられたものだ。

そしてその後、わたしと隼人さんが付き合いはじめると、一時期社内はその噂でいっぱいだった。
それは好意的なものから否定的なものまで様々で、わたしは、自分のせいで隼人さんの評判に傷がつくのではと悩んだこともあった。

というのも、わたしは子供の頃から、いわゆる “グループ” というものが苦手で、それは大人になった今も変わらず、社会人として働きだしてからも何となく周りと線を引いて接していたせいで、社内ではどこか浮いた存在だったからだ。

そんな風に、隼人さんとは逆の意味で目立っていたわたしが、女性社員憧れの隼人さんと付き合うだなんてと、周囲の視線が鋭くなるのは仕方ないことだったのだ。

けれど、隼人さんは『僕は自分の評価くらい自分でどうにかするよ』と断言し、『自分のせいで僕の評判が悪くなるとか、そんな無意味なこともう思わないでくれるかな』と告げてきた。
そのおかげもあって、わたしは、隼人さんと一緒にいることにも後ろめたさも持たなくなったのだ。

そして少しずつわたしのことを理解してくれる人も増えてきて、何より、隼人さんと一緒にいることでわたし自身にも変化があらわれてきたのだろう、あれほど苦痛だった “グループ” にも、それなりの対処ができるようになっていった。


……あれ?考えてみれば、わたし、いつからこんな風になったんだっけ?

振り返ってみてもハッキリしない。

おぼろげな記憶を辿っていると、隼人さんが近付いてきて、気を利かせた同僚達が「先に戻ってるね」と言い残し、行ってしまった。








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