名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

第4話『かぼちゃと小豆のいとこ煮』

 またひとつ、恋人の古い話が聞けた。

 嬉しいことなのに、美兎(みう)には少し悲しさを覚えたのだ。自分は人間だから、彼らとはどうしても壁が出来てしまう。

 いずれ同じ道を歩くとは決まってはいても。埋められない差はどうしたってある。それが、ほんの少し哀しい。

 だから、今は気づかないフリをするしかないのだ。

 しかし、まさか教科書なんかに載るくらいの、歴史人物が元飼い主だとは誰が予想出来ようか。


「……ふむ。びーるは供物にもあったりするが、それよりも泡がきめ細かい気がするね?」
「お粗末様です」
「ここに来るのも随分と久しいが、盛況しているようだね?」
「お陰様で」


 その元飼い主が、今では神に。その猫だったのが、地獄の補佐官だった経緯から妖になってこうして店を営むことになったのは。座敷童子の真穂(まほ)の言葉を借りるのであれば、(えにし)のお陰だろう。


「ん? どうかした??」


 そんな真穂は、今日は子供の姿のままで生ビールをぐいぐいと飲んでいるのは、絵面がなんだかシュール見えた。


「あ、ううん。縁って色々あるんだなあって」
「そりゃあね? あんたが火坑(かきょう)と付き合うようになったのだって、縁でしょ??」
「そ、そうだけど。それは……まあ」
「ふむ。風の噂程度に、太宰府までも届いていたが。火坑? お前とこの可愛らしいお嬢さんとはどうやって出会ったんだい??」
「み、道真(みちざね)様!? それはご勘弁を!?」
「ほう?」
「あー、まーね??」
「ふふ。せめて、美兎さんがお帰りになられてからで」
「火坑さん!?」


 などと、やり取りしている間に。例の妖術とやらで時短料理したかぼちゃと小豆のいとこ煮をいただくことになった。


「……ほう? 見た目は普通のかぼちゃの煮物に小豆を足したように見えるね??」
「人間の慣わしですと、師走(十二月)の冬至によく作られるいとこ煮があるんです。今回は時間を短縮させて調理させていただきました」
「美味しそうですじゃ」
「温かいうちにお召し上がりください」
「いっただきまーす!」
「いただきます!」


 随分と昔に、美兎はまだ祖母が健在だった頃に食べた記憶がある。甘いものと甘いものが美味しくなるわけがないと、小さい頃は毛嫌いしていたのだが。

 味覚も成長した今なら、それが美味しいとわかる。

 かぼちゃは時短してても、ほっくりと柔らかくて調味料の味もシンプルに甘味と醤油の塩気。小豆もほろほろ溶けるように口の中でほぐれて、甘いと甘いなのにしょっぱさが中和して。本当にいとこと思えるくらい、甘くて柔らかくて美味しい煮物に仕上がっていた。

 ここにさらに、甘い梅酒のお湯割りと合わせたら幸せの循環が訪れた。


「……なるほど。甘い野菜と甘く煮付けることが多い小豆をこうも調和させるとは。……うん、見事。腕を上げたね?」
「お粗末様です」


 そして、元飼い主とは言っても神様を納得させるくらいの腕前を持つのだから、美兎個人としては嬉しいと同時に誇らしく思えたのだ。

 美兎がいずれ、火坑と婚姻を結ぶこととなれば。この狭いが温かみのある店内に立つ日が来るのだろうか。

 手際が悪いわけではないが、美兎は普通の家庭料理がいいとこだ。友人でもある雪女の花菜(はなな)に、少し教わろうかと思ったが。

 それなら、自分に聞いて欲しいと火坑なら言いそうなので、また提案しようかと思っておくことにした。


「では。年初めは過ぎましたが……虎ふぐが手に入りましたし。道真様、鰭酒はいかがでしょう?」
「是非頂戴しよう」
「美兎さん達はいかがですか?」
「真穂も鰭酒ー」
「儂も是非に」
「私もいただきます!」


 束の間の宴会は、美兎が少し酔った程度でお開きになり。〆には美兎の出した餅で即席お汁粉を堪能したが。美兎は、女子大生姿になった真穂に自宅まで送ってもらうことになったのだった。
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