名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
のっぺらぼう 弐

第1話 芙美と再会

 ここは、錦町(にしきまち)に接する妖との境界。

 ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。

 たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。

 元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵(らくあん)』に辿りつけれるかもしれない。










 世間はホワイトデー。

 デザイナー見習いの湖沼(こぬま)美兎(みう)としては、つい先日にそのイベントは終了してしまったが。

 同期で、妖と付き合いたての田城(たしろ)真衣(まい)は、火車(かしゃ)風吹(ふぶき)と終業後にホワイトデーのデートをするとはしゃいでいるし。

 先輩の沓木(くつき)も赤鬼の隆輝(りゅうき)に呼ばれているからと、終業後に直帰だとか。

 美兎は美兎で、これと言って用事を入れてはいなかったが。せっかく定時に上がれたのだし、差し入れのお菓子を買ってから楽庵に向かおうと決めた。

 守護で座敷童子の真穂(まほ)は、兄の海峰斗(みほと)とホワイトデーのデートをするべく、界隈の自宅を大掃除しているらしい。

 恋する女の子は健気だなと思わずにいられない。もれなく、美兎もだが。

 店に行くのも久しぶりなので、『rouge』の抹茶フィナンシェでも買おうかと決めたら。少し見覚えのある背格好の女性が前を歩いていたのだ。


「ん〜?」


 知り合いはまあまあいるが、(さかえ)で出会う知り合いは限られていると思う。

 誰だろうと、首をひねっていると。その女性が振り返ったのだ。


「あ」
「あ」


 顔はあるが、界隈じゃないせいか何もない顔とだぶって見えた。服装は、ファンシー。手には大量のお菓子の袋達。

 まだ一度しか出会っていなかったが。

 のっぺらぼうの、芙美(ふみ)だったのだ。


「芙美さん!」
「あ、えーと。ごめん、覚えてはいるんだけど〜?」
「美兎です。湖沼美兎。美作(みまさか)さんと飲み友達の」
「あ、そうそう! 美兎ちゃん! 思い出したー!」


 思い出せたのか、芙美は美兎の手を握ってぶんぶんと上下に振ったのだった。


「お久しぶりですね?」
「バレンタインぶりだね! お仕事終わったのー?」
「あ、はい。手土産買ってから、楽庵に行こうかと」
「あ、そうなんだ〜? ん〜、まだすぐじゃなくていいー?」
「え、はい?」
「ちょっとだけ、聞いて欲しいの〜」


 rougeで先に手土産を買ってから、場所を界隈の喫茶店『かごめ』に移って。

 ちょうど人混みも少なかったので、二人は贅沢にソファ席に腰掛けた。


「お話、と言うのは?」


 芙美はホットモカ、美兎はブレンドコーヒーを頼んでから話を切り出した。


「えっとね〜……私が、美作さんを……ってことは教えたよねー?」
「はい。あの日に教えていただきました」
「LIMEも交換したんだけど〜」
「はい」
「友達って、どこまでが友達なんだろ〜〜!!」
「え?」


 いきなり、テーブルに突っ伏す芙美にも驚いたが。

 話の内容にも、少し驚いた。どう言うことかと。


「……私、情報屋だから。あんまり友達いなくてね〜? だから……仕事仲間とかはともかく、友達とか少ないのぉ。美作さんとはLIMEで色々やり取りはするようになったよ〜?」
「えっと……友達の距離感がわからない、でいいんですか?」
「〜〜そうなのぉ〜〜」


 顔を真っ赤にした後、両手で顔を隠すのは恋する女性らしく可愛らしい。

 だが、あれから一ヵ月経つが、進展はともかく。美作と接触する回数が少ないのだろうか。


「芙美さん。失礼ですけど……美作さんとどこかで会ったりは?」
「? してるよ? ほら、私がチョコ好きでしょ? 美作さんも好きだから、そう言う関係のお店に行ったりとかはしてるんだ〜」
「? お友達、としてですよね?」
「……そのつもりではいたんだけど」
「けど?」
「ついこの前……」


 カップル限定商品を買いに行くときに、無理矢理頼んでしまった時。

 美作は終始苦笑いしてたらしく、やっぱり嫌だったのではと芙美は思ったそうで。以来、LIMEにもスタンプでの返事しか出来ないでいるようだ。

 その回答には、美兎もどう答えていいのかわからなかった。

 偶然とは言え、美兎は相愛だと言うのを芙美には伝えられない。知ってしまったが、ある意味無関係者が伝えたところで。付き合うとは限らないからだ。

 自分のことも、田城のこともあったからだ。


「ふふ。悩める女性は美しいですが、膨れ顔は可愛らしいですね?」


 とここで、マスターの季伯(きはく)が注文した品を持ってきてくれた。


「む〜そーお?」
「ええ。特に恋する女性は」
「話聞こえてた〜?」
「すみません、つい」


 しかし、真穂の縁戚だからか、口は固い彼だ。

 言いふらすことはしないからか、芙美も両手を外して。出来上がったホットモカをちびりちびりと飲み始めた。


「迷惑……だったかなあ〜?」


 おそらく、だが。美作はカップルと勘違いされて気恥ずかしかっただけだと思うのを。

 美兎の口からは言えなかった。
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