花魁夢楼〜貴方様どうか私を買っていただけないでしょうか〜
花魁は遊女の中でも最も位の高い存在。そのため、茶道や書道など礼儀作法を厳しく教えられてきた。夕顔は慣れた手つきでお茶を用意する。その様子を男性はジッと見つめていた。

「どうぞ飲んでくんなんし」

「ありがとう」

どこか緊張したような顔で男性はお茶を受け取る。その顔が誰かに似ているような気がして、夕顔は誰だっただろうかと考えてしまった。

男性はお茶を飲み続け、沈黙が流れる。このような静かな夜は夕顔にとって初めてだ。いつもはとっくに互いの体温に触れて、偽りの愛を囁かれている。

「……お前はどうしてここにいる?こんなところにいて楽しいのか?」

男性に訊ねられ、夕顔は切なく笑った。こんなところに好きで自分を売る女性はいないだろう。みんな親の借金や貧しさから遊女になるしかなかったのだから。

「わっちは貧しさからここにしか行く道はありんした。真はただ一人の何方かのためだけに咲いていたかったのだけれど、運命はわっちの自由を奪い、そいで歯車を廻していくのでありんす」
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