ハナヒノユメ
「先輩...。」

もうこうして気兼ねなく来れるし、手も握ってあげられる。

珍しく寝ているようだったけど、

私を感じてそっと目を開いた。

そして、微笑む。

それが、息を呑むほど美しかった。

美しくて、儚く思えた。

「大丈夫。きっと近いうちに君に会えるよね。」

「はい...きっと。」

「あったかい...。」

手をぎゅっとして、幸せそう...。

こんなに小さな空間でも、

傷ついた彼でも。

私ひとりで癒すことができるんだ。

幸せにすることができるんだって。

そんな錯覚。

そんな都合の良い幻覚を、

彼は見せてくれる。

そして気づく。

それは私のほうだと。

だから...。

彼を見限ってしまった人たちの気持ちが、

私にはいよいよ理解できなくなった。

それと同時に。

大切なたからものを手にしたときのような、

高揚感。

私しか彼を知らない。

そんな優越感に浸っていた。

悪いって分かってる。

きっと彼だって私の醜い気持ちに気づいてる。

よりどころにされてることも。

それなのに、それを全部受け入れてくれることが。

今はただ、うれしい。
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