冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「私と……同じ、色」


 つぶやかれた言葉に、男はそっと微笑みで答えると、リリーの耳元に唇を寄せた。


「リリー……。いつか必ず、きみを俺のものにしてみせる」


 いよいよ意識が途切れる間際で、リリーは男のそんな言葉を聞いた気がした。

 暖かく、逞しい腕の中──。

 リリーはその晩、ひとりの女性として男に身を預け、朝が来る前に意識のすべてを手放した。



 * * *



「……んっ。……え?」


 けれど翌朝、リリーが目を覚ますと男は忽然と姿を消していた。

 代わりにリリーの手には花園の奥に植えれていたオリーブの木の枝が握らされていて、乱れたナイトドレスはきちんと整えられていた。

 リリーの身体を包み込むようにかけられていたのは、ソフィアに渡されたブランケットだ。


(もしかして……全部、夢だったの?)


 リリーはオリーブの枝を握りしめながら、一瞬そんなことを考えてしまったほどだ。

 しかし慌てて身体を起こしたら、下腹部には鈍痛が走り、身体に残る甘い熱が、昨夜の出来事が夢ではないことを知らせてくれた。


(ああ、そうだ。結局……最後まで、彼の名前すら聞けなかったわ)


 リリーは月が消えた空を見上げながら、残されたオリーブの枝をそっと、自身の胸元へと抱き寄せた。

 名前も知らない隻眼の衛兵。

 このときのリリーは、そのうちまた王宮内で、彼を見つけることもあるだろうと淡い期待を抱いていた。




 
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